2011年04月08日発行 1177号

【米英仏のリビア軍事攻撃 「市民保護」の名で石油権益狙う】

国際法違反の空爆

 3月19日(日本時間20日未明)、まさにイラク戦争開戦8周年の日、米英仏などの有志連合(多国籍軍)は、「民間人保護」を口実にリビア西部20か所 に124発のトマホークミサイルと戦闘機による空爆を行い、攻撃を開始した。日本政府は20日、ただちに松本外相が支持を表明した。

 この攻撃は、欧米によるリビアの石油利権確保を目指したものだ。イラク侵略の再来であり、民間人犠牲者を生みだす国際法違反の戦争行為は即時停止されな ければならない。日本政府も、今すぐ支持を撤回し、戦争行為への加担をやめなければならない。

 「オデッセイの夜明け」作戦と称するこの軍事行動の根拠として、米英仏などは、国連安保理決議1973(3/17採択)をあげる。決議は、カダフィ政権 による自国民弾圧からの市民保護を目的に、「飛行禁止区域設定」を含む「必要なあらゆる手段」を取るとし、保護が必要な地域として民衆蜂起の拠点であるリ ビア北東部ベンガジを明記している。ただし、地上軍の駐留は禁止している。決議の採択にはロシア、中国、ブラジル、インド、ドイツが棄権し、採択に必要な 9理事国をかろうじて上回る10か国の賛成であった。米英仏は、リビア攻撃の名分に使うために採択を強行したのである。

「人道的介入」で正当化

 攻撃は、24時間で175回戦闘機を出撃させる猛烈な空爆となった。第2次攻撃では、首都トリポリの国家指導部官邸をミサイル攻撃し、3次攻撃は、カダ フィ大佐の故郷シルトを空爆した。明らかにカダフィ大佐の排除を狙ったもので、国連決議の「市民保護」をも逸脱している。

 リビア国営放送によれば、すでに60人から100人の民間人犠牲者が出ているという。ロシア下院は「このままでは一般住民の新たな犠牲者を生む」「リビ ア領土へのミサイル爆撃は飛行禁止区域とは直接関係がない」と決議し即時停戦を求めた。また、米下院でも、クシニッチ民主党議員をはじめリビア攻撃への批 判が公然となされている。

 攻撃に際して、オバマ米大統領は「独裁者の自国民弾圧は座視できない」「人道的介入」と述べた。だが、それは石油利権確保の軍事介のために作り出した口 実にすぎず、国際法違反の武力行使に変わりはない。リビア政権と同様に民衆蜂起に弾圧を繰り返すイエメンやバーレーンには全く言及しないダブルスタンダー ド(二重基準)である。

 「人道的介入」という言葉で軍事攻撃を正当化するようになったのは、1999年の旧ユーゴスラビア・コソボ戦争の時だ。NATO(北大西洋条約機構)軍 は、セルビア人によるアルバニア系住民虐殺を止めるとの名目で国際法違反の空爆と民間人殺害を正当化した。これと同様である。

 米政府は、地上軍の駐留を禁止した安保理決議を無視しての地上部隊の投入や、果てはリビア東西分割案まで検討しているという。自らの利権確保のためには 恣意的な国家分割も辞さないことが、「人道的」であるはずがない。

犠牲生むだけの軍事介入

 リビアでは1969年、クーデターで王制を倒してカダフィ政権が成立した。野党や労働組合も存在させず、反政府運動は徹底して弾圧してきた。それに対す る不満を高め自由を求める民衆が蜂起しカダフィ政権を追い詰めている。

 この民衆に対する支援とは、断じて軍事介入ではない。軍事介入では、リビアに平和をもたらすことも民主国家を建設することもできない。イラクの経験は、 自由も民主主義も外国軍による軍事介入と占領では育たず、数えきれない市民の犠牲者を生むだけであることを示している。

 「軍隊が人道任務を引き受けると、当該地域の民衆にとって危険となりうる」「軍隊は、人道の力ではなく、なったこともなく、今後もならない」(コソボ戦 争時の『国境なき医師団』代表)ことは、今回のリビア攻撃にもそのままあてはまる。

 だが、有志連合も一枚岩ではない。石油確保の狙いをむき出しに攻撃のエスカレートを求める仏・英と、イラク、アフガニスタンに続く戦争泥沼化は避けたい 米国との亀裂も表面化している。

 自国政府の軍事介入に反対し、戦争屋の手足を縛る国際世論と民衆の連帯による民主化勢力への支援こそが必要なのだ。
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