2011年05月20日発行 1182号

【今なぜビンラディン殺害/「正義の達成」ではなく、犯罪行為/民主主義革命に対する威かく】

 米大統領オバマは5月1日夜(日本時間2日午後)、9・11テロの首謀者とするオサマ・ビ ンラディンの殺害を公表し「正義は達成された」と声明を発した。だがこれは正義とはまったく無縁な行為であり、国際法を踏みにじる私刑(リンチ)殺人だ。 なぜ米政府は今ごろビンラディンを人々の記憶に呼び起こし、乱暴な戦闘劇を演じたのか。窮地に立つオバマ政権の焦りの姿が見えてくる。

国際法違反は明らか

 米政府によれば、5月2日深夜1時(現地時間)パキスタン北部アボダバードの住宅で家族と暮らしていたウサマ・ビンラディンを米海軍特殊部隊が攻撃ヘリ で急襲し、射殺した。攻撃命令を下した大統領オバマは国民向け緊急テレビ演説で「正義が達成された」と表明。日本も含め各国政府はこれを歓迎し、ホワイト ハウス前に集まった米国民は「USA」と連呼し、戦勝祝いに酔いしれた。

 しかし、ターゲットがテロ組織のリーダーだろうが、テロ事件の容疑者であろうが、殺人行為は犯罪だ。非人間的行為の極みである殺人が「合法」とされるの は、判決に基づく死刑執行か戦時法に基づく戦闘行為の場合に限られている。今回の米軍の攻撃は、国家間の武力行使である戦争状態下でもなければ、司法判決 に基づくものでもない。まして、他国の領土での軍事行動であり、当該国の政府にすら連絡しない主権侵害行為だ。明らかな犯罪である。

テロを増やした戦争

 振り返ってみよう。10年前の9・11テロに際し、当時のブッシュ大統領はすぐさま「これは戦争だ」と宣言した。イスラム主義テロ集団アルカイダの指導 者ウサマ・ビンラディンを主犯と断定。潜伏先と決めつけたアフガニスタンのタリバン政権に身柄の引き渡しを要求し、9・11のわずか3週間後に侵略戦争を 開始した。

 9・11テロは、3千人に上る犠牲者を出したとはいえ、米国内法で裁くべき犯罪であった。ところが、米政府は「自衛権」「報復」の名の下にタリバン政権 に攻撃を加え、民衆を無差別に殺害した。米政府にとって、9・11事件の全容解明も犯人逮捕もどうでもよかった。

 それから10年。米政府は「対テロ戦争」の名の下にアフガン、イラクを相次いで侵略し、100万人とも200万人ともいわれる人々を殺害してきた。これ らすべてが国際法に反する犯罪行為である。世界の民衆は最大のテロ国家米国の蛮行に抗議の声を上げ続けてきた。米国の暴力こそが「反米」を大義名分にした テロを生む温床となってきた。

 アルカイダは、もともとアフガンに侵攻したソ連(当時)に対抗させるために米政府・CIAが養成したテロ集団だった。冷戦終結後も軍事行動を正当化する 存在としてこうした集団を利用してきた。イラク国内のテロ行為が占領によってもたらされ、逆に占領軍駐留の口実とされてきたことをみればよくわかる。

占領終結こそ正義

 なぜ今ごろになって、存在すら忘れられかけていたビンラディンを引きずり出し、殺害に及んだのか。

 それはオバマ政権が窮地に立たされているからだ。国内では、来年の大統領選挙を前に支持率低下が続いていた。国際的には、北アフリカ・中東で親米独裁政 権が民衆の手によって相次いで追放されている。

 チュニジア、エジプトと続いた民主主義革命はサウジアラビア、シリアなどへ広がりを見せている。民衆は、大衆的行動で独裁政権を打倒できると確信した。 民衆の怒りは、テロ集団に組織されることなく、グローバル資本の新自由主義に向けられている。米占領下のアフガン、イラクで占領反対、民主的政権樹立の大 衆行動がわきおこっている。

 親米政権を維持したいオバマ政権は、民主主義革命のうねりを押しとどめるために、公然と軍事力が行使できる環境を取り戻そうとしている。民衆に無力感を 押し付け、再び暴力の応酬の泥沼に引きずり込もうというのだ。

 オバマはビンラディン殺害声明の中で「アルカイダとの戦いで最も大きな成果となった。だが、対テロ戦争は今後も続く」と明言している。

 アルカイダなどテロ集団の「報復」を誘発し大手を振って武力行使ができる環境こそ、戦争と貧困を生み出すグローバル資本、新自由主義信奉者たちの望むも のである。

 一時的に上昇したオバマ支持率もすぐさま下がることだろう。テロ国家米政府はますます孤立するに違いない。正義は不法な占領を一刻も早く終わらせること でしか実現しない。  (T)
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