2011年10月14日発行 1202号

【原発維持と核兵器/読売新聞、自民・石破が公然と主張/「原発は潜在的核抑止力」】

 原子力発電と核兵器開発はコインの裏表の関係にある。日本政府が原発に固執する背景には独 自核武装の意図がある、とささやかれてきた。原発維持の「根拠」が次々に崩れる中、原発推進勢力はこれまで内に秘めていた本音を口にし始めている。一部メ ディアや政治家が唱える「原発=核抑止力」論がそれである。

異例の「読売」社説

 9月7日の読売新聞は「展望なき『脱原発』と決別を」と題する社説を掲げた。原発推進をやめてはいけないという内容で、その理由を列挙している。まだ言 うかという感じの「電力不足」うんぬんはスルーしてよい。注目すべきは次の一節である。

 「日本は原子力の平和利用を通じて核拡散防止条約(NPT)体制の強化に努め、核兵器の材料になり得るプルトニウムの利用が認められている。こうした現 状が、外交的には、潜在的な核抑止力として機能していることも事実だ」。だから「高性能で安全な原発を今後も新設していく、という選択肢を排除すべきでは ない」というのである。

 原発の技術が核兵器製造に転用できることは周知の事実だが、そのことを理由に原発の必要性を説く論説など大手紙ではありえなかった。「原子力の平和利 用」を旗印とする原発推進勢力にとって、核兵器を連想させる話は絶対禁句だったからだ。

 「読売」が自ら核抑止力論を持ち出すようになったのは、そこまで言わないと原発の必要性に理解が得にくくなっているという、彼らなりの判断があるからで あろう。

 菅前首相が高速増殖炉「もんじゅ」について「廃炉を含めて検討する」と口走った際も、「読売」は核抑止力論の観点から猛反対している(8/10社説)。 少し解説すると、高速増殖炉が稼動すれば、核分裂を起こしやすいプルトニウム239の割合が96%の核兵器用プルトニウムを製造できる。日本の「もん じゅ」の場合、原爆30発分に相当するプルトニウムを1年間に生産する能力があるという。

 諸外国がとっくの昔に撤退し、商業的にみても採算の合うはずもない高速増殖炉に、日本政府が莫大な費用を投じてまでしがみつく本当の理由がここにある。

実は政府の方針

 さらに具体的な事例をみてみよう。防衛庁長官、防衛大臣を歴任した石破茂・自民党政調会長の発言である(雑誌『SAPIO』10月5日号)。石破は「核 の潜在的抑止力を維持するために、原発をやめるべきとは思いません」と持論を展開する。

 「核の基礎研究から始めれば、実際に核を持つまで5年や10年かかる。しかし、原発の技術があることで、数か月から1年といった比較的短期間で核を持ち うる。加えて我が国は世界有数のロケット技術を持っている。この2つを組み合わせれば、かなり短い期間で効果的な核保有を現実化できる」

 原発大国の日本がその気になれば核ミサイルなんて簡単にできますよ、というわけだ。これは軍事オタクとして有名な石破個人の妄想ではない。歴代政府が受 け継いできた核保有に関する方針を正直に述べたものにすぎない。

 外務省が1969年に作成した内部資料「わが国の外交政策大綱」には、以下のようなくだりがある。「当面核兵器は保有しない政策はとるが、核兵器製造の 経済的・技術的ポテンシャル(能力)は常に保持するとともに、これに対する掣肘(せいちゅう/周囲からの干渉)を受けないよう配慮する」

 しかも、外務省幹部は個人的談話として「日本の外交力の裏付けとして核武装の選択の可能性を捨ててしまわない方がいい。そのためにもプルトニウムの蓄積 と、ミサイルに転用できるロケット技術の開発はしておかねばならない」と、石破とまったく同じことを述べている(92年11/29朝日)。

 時の首相として原子力発電に踏み込んだ岸信介は、後にこう語っている。「(原子力の)平和利用だといっても、一朝ことあるときにこれを軍事目的に使用で きないというものではない」。原発推進という国策の背景に、軍事利用=独自核武装の思惑があることは明らかだ。

原発も原爆も不要

 原発があることが潜在的核抑止力になると、読売新聞などは言う。だが、日本の核開発能力を周辺諸国は軍事的脅威とみなしており、そのことが東アジアの核 軍縮、緊張緩和の障害となっている。

 高度な核技術を持ち、実際にプルトニウムをため込んでいる国が「核開発反対」を唱えたところで、周囲から疑惑の目で見られるのがオチだ。世界から核兵器 をなくすためにも、原発は廃止するしかないのである。

 また、原発そのものが放射能をまき散らす大量破壊兵器となることは、今回の原発事故で明らかだ。核武装の能力を保つために、原発の脅威に国民をさらすな んてありえない。そのような戦争国家で暮らしたくない。原発に依存する社会こそ変えていかねばならないのである。  (M)
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