2012年01月27日発行 1216号

【非国民がやってきた!(126)〜井上ひさしの遺言(4)】

 時は1933年1月、場所は麻布だが、戯作者ならぬ偽作者の時代考証がいいかげんなため、 背景に東京スカイツリータワーが見える。

 客席が暗くなると――舞台奥から中央へ、滑るように移動してきていたピアノで、ピアニストが短い前奏曲を弾いている。

 やがて――5人の俳優が登場。手分けして「秘密文書」を歌う。

全員
 ヒミツ それはヒミツ
 誰にも見せない ヒミツ
 兄弟にも 友だちにも 恋人にも  
 特高にも 公安にも CIAにも
 ひみつ それはヒミツ
 誰にも見せない ヒミツ

多喜二――第1回から4回までの4回分、徹夜で、すませておきましたからね。

ふじ子――(拝むようにして受け取って)しっかりと、読ませていただきます。

多喜二――(瀧子に)えらいな、瀧ちゃんは。

瀧子――・・・そうかァ。

多喜二――これからの女性は腕に職をつけて、男性から自立しなければならない。そういう新しい時代の考え方を実行しているところがえらい。尊敬する。

 そこへ2人の特高刑事が入って来る。多喜二が懐から文書をそっと取り出して、刑事に見えないように、瀧子に渡す。

刑事A――ちょうどいいところだった。ふじ子さん、その秘密文書を渡してもらいましょうか。

ふじ子――(多喜二の原稿を丸めて背中に隠し)いいえ、これは秘密文書なんかではありません。

刑事B――あわてて隠そうとする仕草が、何よりも事実を雄弁に物語っていますな。

 瀧子、台所に行くふりをして立ち上がろうとする。


刑事A――(行く手をふさいで)瀧子さん、そのまま、そのまま。
刑事B――危うく陽動作戦に引っかかるところだった。こっちが本物の秘密文書というわけだ。おとなしく渡してもらおうか。

 刑事たち、瀧子につかみかかり、3人で文書を引っ張り合う。多喜二とふじ子も加わり、5人の手の中で文書は千切れちぎれになる。

瀧子――ああっ、多喜二さんの原稿が破れてしまった。

 しゃがみこんで、ばらばらの紙片をかき集める瀧子。

 「●●したいの●、これ●●際条約●、●本政●●200●●3●に●准●てい●●●法9●●の●項には、●●●記され●●ます。『●本国●締結●●●約 及●確●●れた国●法●は、これ●●●に遵守する●●●必要●●る』。●か●、国●●約は●●の名誉に●●て●●といった●●●見せて、●●的に●●●れ た特別の●●地域●●●れるよ●●、●●ことに●●と共感●●す●員や●長を●●でいき●●。
 ●●です。権●●●々の主●●を分け●●●が、実●●●なの●す。戦●●●こす主体●●●●府で、決し●●民では●●ません。そん●●府に、●●者の国 ●●絶えず●●を加え●●●●が国民●権の基本●●組みで●。と●●が国●と国●は一体と●●●想があって、●●何かや●●き国民は●●●なければ●●な いんだ●●●●しまう。し●し、昨年夏の●●●では、●●政府・●政者と国●●●●のだと示し●●思います。『美し●国』●うさん●いと分●●た。」

<参考文献>
井上ひさし『組曲虐殺』(集英社、2010年)
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