2012年02月17日発行 1219号

【イラン制裁問題/10年前のイラクと酷似/戦争政策にしがみつくグローバル資本】

 イランの核開発をめぐり、米国は独自の制裁措置を決め、EU(欧州連合)などが追随した。 イランが原油輸送路ホルムズ海峡の封鎖をほのめかすと米英仏がアラビア湾への派兵を開始するなど、戦争挑発の動きが高まっている。「疑惑・制裁・開戦」の シナリオは、10年前のイラク戦争前夜と同じだ。どんな思惑があるのか。

制裁は国内事情

 米国は2011年末、対イラン制裁措置を含む国防権限法を成立させた。イラン中央銀行と取引のある銀行・企業に対し米国銀行とのドル決済を禁止すること で、イラン石油の販売を妨害しようというものだ。

 イランへの制裁措置については、06年以来国連安保理決議が4回採択され、資産凍結や核物資・技術への投資の禁止などが実行されている。米国の独自制裁 措置決定は、そのひと月前の11月にIAEA(国際原子力機関)がイランの核兵器開発に「深刻な懸念」を表明する報告書を出したことを受けたものだ。イラ ンに新たな動きがあったわけではなく、IAEAの報告書は米国提供の情報による。制裁は、米国の都合に合わせて決定された。

 米国はなぜこの時期に「イランの核疑惑」を再燃させる必要があったのか。

 それは、ちょうどイラクから“勝利なき撤退”を余儀なくされ、中東での「戦争の火種」が消えかかったからだ。しかも、大統領選に向けて候補者選びが本格 化する中、ユダヤロビイストからの資金提供を獲得するためにも、イスラエルに敵対するイランに強硬姿勢を示す必要がある。そんなお家の事情が反映した。

 EUは1月23日、イラン原油の輸入を禁止する制裁措置を決めた。新規契約を禁止し、7月以降一切の輸入を止める。
 EUが輸入するイラン石油の68%はギリシャ・スペイン・イタリアが消費している。制裁でダメージを受けるギリシャなどの強い反対にもかかわらず、英仏 両国は制裁措置に固執した。

 EUでは、IMF(国際通貨基金)などの金融機関がギリシャをはじめ債務危機に直面する国々に緊縮財政、増税路線を迫っている。国民に犠牲を転嫁する政 策に各国とも民衆の反発は大きく、各地でオキュパイ(占拠)運動を誘発している。そんな中でのイラン制裁だ。民衆の声を抑え込むのに「イランの脅威」が利 用できるというわけだ。


互いに戦争挑発

 昨年来イランを挑発する事件が相次いで起こっている。イスラエルは「イランの脅威を取り除くために空爆も」(11年9月)「爆撃の準備はできた」(12 年2月)と挑発的な言葉を繰り返す。11年10月には、米国内で駐米サウジアラビア大使の暗殺未遂事件が発覚。FBI(連邦捜査局)は、犯人はイラン革命 防衛軍に雇われたと断定した。今年になってイラン国内で原子力研究者が暗殺された。「IAEAが科学者名簿を提供し米CIA(中央情報局)が実行」とイラ ンは非難している。

 一方、欧米の制裁措置に対してイランは、海上輸送原油の30%以上が通過するホルムズ海峡封鎖をほのめかし、実際にミサイル発射演習を実施するなど危険 な戦争挑発で対抗している。「核の平和利用は正当な権利」と主張し、ウラン濃縮技術開発を進めている。ウラン濃縮技術は、核兵器開発に不可欠だ。核兵器開 発を抜きに原子力発電に手を出す理由などない。

民主主義を圧殺

 イランをめぐる状況は、10年前イラクに対し大量破壊兵器の存在を声高に煽り、米英が国連査察チームを送り込んだ状況とぴったり重なる。

 政治的危機も経済危機も投機で儲ける金融資本にとってはチャンスだ。99%の民衆を食いものにする1%のグローバル資本は、いまだに戦争挑発で甘い汁を 吸おうとしている。軍事的緊張は民主主義を圧殺する。アラビア湾に展開する軍事力は湾岸諸国の民主主義革命への動きを威嚇する存在となり、イラン政府は民 主化を求める国内の運動を抑え込む絶好の口実を手に入れることになる。

 あらゆる「戦争の火種」を取り除き、制裁・戦争でなく平和的交渉を求める国際世論を広げなければならない。  
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS