2012年05月04・11日発行 1230号

【非国民がやってきた!(133)  泣くのは嫌だ 笑っちゃおう(5)】

偽博士――遅筆堂文庫が見えてきました。

偽モッキンポット師――山形県川西町町民と小松青年が意気投合してつくった「小さな町の大きな図書館」やな。

偽博士――よくご存じですね。

偽モッキンポット師――知らんのに知っとるから不思議や。

偽フン――ストーリーのご都合主義的展開のためだな。

偽モッキンポット師――かまへん、かまへん。遅筆堂文庫の実現に尽力した遠藤征広の著作も出ていたことや。悲壮な決意で小松青年に手紙を出したところ、そ こからの機縁で、ついには川西町に立派な図書館ができたちゅう話や。で、小松青年はなんで遅筆堂と名乗ったんや。

偽博士――井上ひさし先生は原稿締切を守り切れずに、少々遅れることがありました。

偽フン――少々、じゃない。締切との闘いは作家の宿命じゃ。悩みに悩み、苦しみぬいた揚句に原稿が書けず、七転八倒九転十倒、あたかも生死の狭間をさまよ うようにして新作を書きあげるのが作家冥利と言うものだ。多くの天才作家が命を削りながら名作を世に送り出してきた。

偽モッキンポット師――三流作家の大友憤でも、そんな苦しみ味わうんか。作家にはなりとうないもんやな。

偽フン――フン、わしはブンのおかげで苦労知らずじゃ。命じゃなく鉛筆削りながら、気づいた時には次の作品ができている。

偽モッキンポット師――代筆詐欺や。

偽フン――わしが生んだブンがわしの原稿を書いても、何も問題なかろう。わしの作品や。

偽博士――ひさし先生は演劇の公演初日に作品が間に合わなくて、公演中止となり、皆さんにご迷惑をおかけして、謝罪の日々だったこともあります。多額の損 害賠償も払いました。

偽フン――遅筆堂と称した割にずいぶんたくさんの作品を送り出しているな。小説、演劇は勿論、エッセイも含めるとかなりな量だ。これでは遅筆堂とはいえな いぞ。

偽博士――売れっ子作家の宿命でしょうか。

偽モッキンポット師――殴り書きの天才とも言うな。

偽博士――言いませんてば(苦笑)。

偽フン――で、小松滋『Hな伝奇』と息子たちの名前はどう関係あるのかな。

偽博士――『H丸伝奇』です。フン先生、わざと間違えてますね。まず、ひさし先生のお父さんは本名・井上修吉ですが、ペンネームは小松滋です。小松はお住 まいの住所から取り、滋は長男、ひさし先生のお兄さんの名前です。

偽フン――やっぱり安直なネーミングだ。

偽博士――弟さんの名前が修佑です。お父さんの修の字をつけたのです。

偽モッキンポット師――ほなら厦の由来は何や。母親の名前か、それとも引っ越し先の地名か。

偽博士――違います。ひさし先生の名前・厦は謎だったのです。ひさし先生自身、答えを書いていませんから。

偽フン――なんだ「文学史の知られざる謎」とか言っていたのは、このことか。

偽博士――はい、『H丸伝奇』のおかげで謎が解けたのです。

偽モッキンポット師――「H丸」が「ひょっこりひょうたん丸」やのうて「ひさし丸」だったちゅうんやな。

偽博士――いえ、H丸はH丸としか書いてません。

<参考文献>
遠藤征広『遅筆堂文庫物語』(日外アソシエーツ、1998年)
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