2012年06月08日発行 1234号

【放射能防護の国際フォーラム/スイスで科学者と市民が交流/福島から参加、地脇美和さんに聞く/汚染地からの脱出が世 界の常識】

 5月12〜13日、スイス・ジュネーブで「放射能防護に関する科学者と市民フォーラム」が 開催された。招請を受け参加した、放射能から子どもたちを守る福島ネットワークの地脇美和さんに聞いた。



◆放射能防護に関する科学者と市民フォーラムとは。

 フォーラムを主催したのはIndependent WHO(WHO<世界保健機関>独立を求める会)。この団体は「WHOは低線量被曝に関 し、世界に正しい情報を与える任務を放棄している」と批判し、活動しています。WHOはチェルノブイリやその他の原子力・核活動による健康被害の事実を隠 ぺいしてきました。原発推進を任務の一つとするIAEA(国際原子力機関)と1959年に協定を結び、IAEAの承認抜きには被曝に関する情報提供も調査 も支援もできない構造になっています。現在、WHOには放射線防護に関するセクションさえ存在しません。

チェルノブイリの実態

◆どんな人が参加し、どんな 論議だったのですか。

 会場には、スイスやフランス在住の日本人女性の参加もあり、みな子どもたちのことをたいへん心配し、「なぜ、避難などの対策がとられていないのか」と私 は質問攻めにあいました。夫が元国連職員という女性はその夫から「ノーベル賞級の科学者たちが集まっているすごい会議だね。彼らと話したの?!」と言われ たとか。

 5つのセッションがあり、それぞれ充実した内容でした。

 <セッション3>では、ベラルーシの小児科医ガリーナ・バンダジェフスカヤさんが「児童における心臓疾患と低線量被曝におけるセシウム137とは相関関 係があり、ベラルーシでは子どもの人口が減り、健康が悪化している。チェルノブイリの悲劇は増えている。過去形で話すことはできない」。ウラディーミル・ バベンコさんは自著・放射線防護の手引き『自分と子どもを放射能から守るには』(日本とベラルーシで刊行)を紹介しながら、「チェルノブイリでは情報が隠 ぺいされ、真実が伝えられず、歪曲された。日本も同じことが起こっているのではないか。住民は基本的な情報も信じなくなる。ベラルーシでは6年たってはじ めて被害がわかった。むだに時間が失われてしまった」と語りました。

 <セッション4>では、ソフィ・フォーコニエさんが「チェルノブイリ後のコルシカ島における放射能汚染と疫学的調査を獲得する困難」について報告。「2 千キロ離れたコルシカ島では、放射性降下物の影響が大きく、気候条件などもあり、甲状腺ガンが増加している。研究したことは、人々を心配させるから言わな いようにと言われた」

 <セッション5>では、ベラルーシの病理学者ユーリ・バンダジェフスキーさんが「健康の保護が大切。セシウムはすべての臓器に影響する。実際の汚染レベ ルを知ること、セシウムなしの食べ物を摂取すること、情報を与え、教育することが重要」。クリス・バズビーさん(ECRR<欧州放射線リスク委員会 >)は「市民も自分からアクションを起こさないと進歩がない」と参加者たちに数々の具体的行動を呼びかけ、スイス人医学博士のミシェル・フェルネッ クスさんは「汚染地帯からの移住を成し遂げなくてはならない。健康被害の真実を伝えるためのセンターを作る必要がある。放射線防護の原則は遵守されなくて はならない」と強調しました。


福島からの訴え

◆福島から訴えたことは。

 日本からは、松井英介さん(医師、放射線医学)が「内部被曝、低線量被曝について」、丸森あやさん、岩田渉さんが福島市の市民放射能測定所の活動を報告 しました。

 私は、原発震災以降、情報は隠され、過小評価され、「安心・安全キャンペーン」により人々や地域は分断されてしまい、放射能のことが話題にできない雰囲 気が作られてきたこと、その中でも、子どものことを心配する親や市民たちが立ち上がり、ネットワークを作り、毎日必死で様々な活動をしてきたことを報告。 私たちは子どもたちとすべての命を守るために、あきらめずに努力し続けるので世界のみなさんの支援をお願いしたい、と訴えました。

 このフォーラムに、私たちは「招待された」ものの交通費は日本側負担でした。潤沢な資金と権力を持つ原子力推進勢力に対し、このような市民団体は資金を もっていません。今回、「真の放射線防護を保障する」運動を起こそうと世界の英知を結集し、科学者と市民が集まった画期的なフォーラムになったと思いま す。

市民独自で調査を

 バズビーさんは「東京と会津若松市で講演したが、線量の高い福島市と郡山市は危険なので行かなかった」とはっきり言います。「チェルノブイリの線量の高 かった地域で測定を行っていた同僚は、脳腫瘍や肺がんでみんな亡くなった。自分はそうなりたくない。これはまじめな話だ」。しかし、バズビーさんが避けた 都市には、現在も多くの子どもたちが住んでいる。「だからこそ、こうした地域に子どもを住まわせるのは犯罪だと言いたい」と。

 私は、彼に問いました。日本では市民活動に協力してくれる医療関係者が少ないこと。疫学調査についても検討したが、「一市民団体ではとても取り組むこと ができない」「ハードルが高すぎる」など意見が出たこと。福島では、様々な症状が出て受診しても「ストレスのせい」「気にしすぎ」とされること。そして、 疫学調査の必要性、重要性は痛感するが、どうしたらよいかわからない、と疑問をぶつけたのです。

 バズビーさんは「行政が硬直化した中で、しなやかに闘う一つの方法は、個人または市民団体などが独自に症状や体の変化などを調査する疫学の方法を身に付 けることだ」「質問の仕方などのノウハウは英文ですでにある。訳してそのまま使ったらいい」「相談にのる」「何をやっても、悪く言いたい人は言う。そんな ことはいちいち気にせずに、必要なことをやるだけだ」と話してくれました。

除染はもう限界

◆参加して感じたことは。

 この間、全国の方々と子どもたちの保養、疎開のネットワークを作り、多くの子どもたちを受け入れてもらってきました。除染の限界が誰の目にも明らかに なってきているのに、ある自治体は「『避難』を呼びかけている団体に支援はできない」とはっきり言います。今回、「低線量被曝は子どもたちに様々な健康被 害を引き起こす」ことを痛切に再確認しました。

 疲れている暇はない。急ピッチに進めなくては。

 開催者の一人アリソン・カッツさんは「チェルノブイリでは数年の間、誰も外に向かって話さなかった。話す機会すら与えられなかった。だが、日本のNGO はこうして世界に訴えに来ている。動き出している。大きな違いだ」と。

 チェルノブイリの悲劇は現在進行形です。フクシマも次から次に問題が出てきて、正直、途方に暮れてしまう日々ですが、世界の科学者や市民の力をあわせ、 少しでも被害を軽減して、生きていける環境、社会を作りたい―そんな思いを新たにしました。

◆ありがとうございました。


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