2012年08月03日発行 1242号

【非国民がやってきた!(139)〜泣くのは嫌だ 笑っちゃおう(11)】

――山形から宮城上空へ流れている空飛ぶ絨毯の上で、フンの演説が続く。

偽フン――治安維持法と特高警察による弾圧と暴虐と拷問の嵐が吹き荒れた時代にも、人民は圧政にうちひしがれながら、飢饉にもだえ苦しみながら、それでも 希望を求めて闘い続けた。われら作家もまた、地に足をつけ、人民とともに、腐敗した権力に立ち向かい、世界の不条理を暴きだし、来るべき変革と、輝ける自 由と解放と、人間性の全面的発展のために、ひたすら文字を刻み、言葉を練り直し、文章を送り出したのであ〜るッ。

偽モッキンポット師――フンの奮闘はふんまにわかるが、おまはんの名前は憤慨の憤やなかったか。悪政に憤慨し、歯ぎしりすんのがせいぜいやろ。

偽フン――売れない三流作家時代のわしが、ごまめの歯ぎしりに終始しておったのは事実じゃ。しか〜し、ブンと出会って以後のわしは見事に人間革命を成し遂 げ、世界の不条理と闘い続けてきた。プロレタリア作家たちの切なる願いと、苦渋の闘いがよくわかるのじゃ。

偽モッキンポット師――せやったんか。知らんかった。おまはんが売れてへん時代をネタにおちょくってばかりで、すんまへんな。

偽フン――なんの、構わん。井上修吉というプロレタリア作家志望の青年と、父親を超えて闘い続けた井上ひさしという本物の喜劇作家に向き合うための東北地 方・空の旅じゃ。

偽博士――「本物の喜劇作家」って、凄い含蓄のありそうな言葉ですね。

偽フン――喜劇を一段低いものと見る世間の偏見と真っ向勝負し続けた井上ひさし。

偽モッキンポット師――「難しいことをやさしく、ふかいことをおもしろく」。

偽博士――モッキンポット先生、よくご存じですね。

偽モッキンポット師――アマゾンで、小松青年の『ふかいことをおもしろく』購(こ)うたんや。

偽博士――僕も愛読しています。ひさし先生は「笑いは、人間の関係性の中で作っていくもので、僕はそこに重きを置きたいのです。人間の出来る最大の仕事 は、人が行く悲しい運命を忘れさせるような、その瞬間だけでも抵抗出来るようないい笑いをみんなで作り合っていくことだと思います」とおっしゃっていま す。

偽モッキンポット師――そや、ふかい言葉やろ。

偽フン――抵抗の原点としての笑い、非国民の宿命としての喜劇じゃ。

偽モッキンポット師――大友憤先生。

偽フン――えっ、(驚いて一歩退がりながら)どうしたんだ。突然、そんな呼び方をされるとくすぐったい。

偽モッキンポット師――抵抗の原点としての笑い・・・せやったんか、ようやっとわてにも呑みこめた。

偽博士――モッキンポット先生もフン先生も、ひさし先生初期の造形の代表ですから、難しいことをやさしく、ふかいことをおもしろく、です。

偽モッキンポット師――最初期の造形は、博士、おまはんや。

偽フン――そうじゃ、わしらは井上ひさしワールドの住人らしく、たとえ息苦しい時代でも・・・

偽モッキンポット師――お先真っ暗に見える社会でも・・・

偽フン――震災被災者を切り捨てる棄民政府でも・・・

偽モッキンポット師――ごまかし増税、嘘吐き政治の国家でも・・・

偽博士――空から放射能が降ってくる時代でも・・・そう、ぼくらはくじけない!

――3人で合唱する。

苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけどぼくらはくじけない
泣くのはいやだ笑っちゃおう

<参考文献>
井上ひさし『ふかいことをおもしろく』(PHP研究所、2011年)
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