2012年09月21日発行 1248号

【紛争センター1年―続出する未解決/賠償拒む政府・東電/原発被災者支援法の早期具体化を】

 福島原発事故の賠償を裁判によらず調停で早期に解決するための組織であったはずの「原子力 損害賠償紛争解決センター」(原発ADR)。しかし事故から1年半経った現在も原発ADRによる賠償は遅々として進まない。

進まない「紛争解決」

 原発ADRは、福島原発事故から半年後の2011年9月にスタートした。発足から5か月後の今年2月段階で、申立件数は約500件あったが和解に至った のはわずか4件。8月31日段階で3793件の申立に対し、「解決」は520件にとどまる。原発ADRが目的としている「3か月以内の解決」にはほど遠 い。しかも、これらは氷山の一角だ。原発ADR自身「争いになりそうなものは10万件を上回る可能性がある」(9/2朝日)と認める。

  遅々として進まない賠償の動きに、原発ADRへの申立を取り下げ、東京電力と自主交渉をする動きも出始めている。例えば、福島県内の養魚業者の団体は「原 発ADRに期待することは困難」として申立を取り下げ、自主交渉を行っている。

 解決が進まない根本的な理由は、そもそも賠償の根拠である原子力損害賠償法が原発事業者を守ることを目的としているところにある。そのため強制力がな く、当事者の合意がなければ解決にならないため、東電はいくらでも和解を拒否できる。

 少なくとも、原発ADRを、原子力ムラに利害関係を持たない中立的第三者で構成される紛争処理機関に作り替えることが必要だ。

2億の請求に3万の回答

 東電は、原発ADR以外の賠償交渉でも徹底的な値切りに出ている。宮城県内15の個人・法人が集団で行った2億3千万円の賠償請求に対し、東電が示した 回答はわずか3万円。それも線量計購入費が認められたに過ぎない。東電は、宮城県が原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)の中間指針に示された賠償対象地域 でないことを理由に支払いを拒否しており、被害者代理人弁護士は「実態を調べもせず、適当に処理したような回答だ」と憤る。

 では原賠審中間指針が認めた賠償地域からの請求には東電が誠実に応じているかといえば、そうではない。福島県いわき市内のゴルフ場が芝の張り替え費用と して請求した19億円のうち、東電が示した賠償額はわずか13万円。事実上の支払い拒否といえる。

  震災と原発事故の影響で失業したある男性は「今は貯金で生活しているが、年老いた親を抱え新しい仕事も見つからない。結局彼らの言い値で妥協するしかない のか」と焦りを募らせる。東電の基本姿勢は、解決を引き延ばし被害者が困り果てあきらめるのを待つ「兵糧攻め」である。

 いつまでも解決の兆しすらない状況の中で、集団的な賠償訴訟の動きも出てきた。いわき市民で作る「原発事故の完全賠償をさせる会」が、年内にも福島地裁 いわき支部に賠償訴訟を起こす。妊婦と18歳以下の子どもは1人1か月あたり8万円、それ以外の人は月3万円の損害賠償を「福島原発廃炉まで毎月」支払う よう求める。原告は千人を超す見通しだが、裁判所は「原子力ムラの番人」状態であり、予断を許さない。

支援策を「基本方針」に

 東電のこうした対応は予想されたことだ。国も自治体も東電も自分を加害者だと思っていない。加害の意識のない者が進んで賠償をすることなどあり得ない。 もはや強制力を持つ賠償の枠組みを作るしかない。

 ひとつのよい前例がある。チェルノブイリ原発事故から5年後に制定された「チェルノブイリ法」だ。自然放射線を除いた追加被曝量が年間1ミリシーベルト 以上となる地域を「移住の権利区域」とし、移住を希望する住民に政府の資金援助で移住する権利が与えられたほか、残留する住民にも安全な食料の供給、医療 の提供などが行われた。

 被災者支援法を生かす

 6月に議員立法で成立した「原発事故子ども・被災者支援法」は、チェルノブイリ法にならったものだ。福島―全国の市民の運動の力で選択的避難の権利(避 難したい人は避難し、残りたい人は残る)を盛り込ませた画期的な法律で、早急に被害者の救済に生かす必要がある。

 政府・官僚による被災者支援法の骨抜きを許さず、法が義務付ける「基本方針」に具体的支援策を盛り込ませることが当面の課題となる。とりわけ、「支援対 象地域」を年1ミリシーベルト超の地域とすることは、被曝低減化の観点から重要だ。福島県在住者・避難者・県外者を問わず、必要な支援策を項目化・数値化 し、「基本方針」に盛り込むもの、現行の自治体施策との調整が必要なもの、新たな実施法の策定が必要なものを仕分けし、確実に実行させなければならない。

 加害者を明確にするために闘う福島原発告訴団の運動と、原発被災者支援法の具体化の取り組みを車の両輪として闘いを強めよう。


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