2012年09月21日発行 1248号
【そうだったのか領土問題/戦争屋に踊らされてはならない/奪い合いより友好互恵の関係を】
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尖閣諸島(中国名・釣魚諸島)および竹島(韓国名・独島)の領有権をめぐり、日中、日韓の
摩擦が激化している。領土問題を利用して好戦勢力が排外主義的ナショナリズムを煽り立てている今、私たちはこの問題にどう対処すればいいのか。「そうだっ
たのか」形式で考えてみたい。
固有の領土なのか
尖閣諸島、竹島の問題が再燃して以来、読者の皆様からたくさんの質問をいただいています。一番多い質問はやはり「で、どっちのものなの」。結論を先に言
いましょう。客観的にみれば、尖閣も竹島も双方の国が領有権を主張している「係争地」ということになります。
そもそも「我が国の固有の領土」という表現がおかしいのです。この言い方だと「太古の昔からの領土」という印象を受けます。でもね、よく考えてくださ
い。たとえば、尖閣諸島は沖縄県に属することになっていますが、沖縄は日本固有の領土ですか。違いますね。明治政府が1872年に琉球王国を強制廃止する
まで沖縄(琉球)は独立国でした。
沖縄が日本ではない時期に尖閣諸島が日本領ということはありえません。「1895年に沖縄県に編入した」という日本政府の主張を認めたとしても、たかだ
か100年程度の領有で「歴史的にも固有の領土」とは言えません。
「中国固有の領土」とも言えません。中国が尖閣諸島を継続して実効支配していたことはないのです。日中国交回復交渉の過程で、当時の周恩来首相が「釣魚
島のことは忘れていた」と正直に述べているぐらいですから。
「固有の領土」論は、こうした歴史的経緯をごまかすためのマジック・ワードです。ですから、その呪縛から脱することが領土問題を考える際の基本になりま
す。
では、法的な側面はどうか。日本政府は尖閣諸島や竹島の領有を「無主地先占」という国際法上の概念で正当化します。どこの国にも属していない土地(無主
地)は、先に実効支配(占領)した国のものとなるという理屈ですね。つまりこれは、帝国主義国による植民地分割を正当化するための法理なんです。
前号の記事(3面)で明らかにしたように、尖閣諸島も竹島も大日本帝国の領土拡張政策によって日本領とされた島です。日本政府が今、「無主地先占」の論
理でこれらの領有権を主張することは「帝国主義の何が悪い。合法だ」と開き直るのと同じです。中国や韓国の民衆が憤るのは当たり前。私たちも「無主地先
占」なる強盗の屁理屈を認めるわけにはいきません。

未解決の戦後処理
アジア太平洋戦争の敗北に際し、日本はアジア侵略によって獲得した領土や植民地の返還を世界に約束しました。尖閣諸島や竹島の領有も無効になったはずで
す。ところが、日本政府は両島を手放さず、戦後処理の過程でもその帰属をゼロから話し合うということをしませんでした。
その結果が不透明な政治決着です。竹島の例でいうと、日本政府は当時の朴正煕(パク・チョンヒ)軍事独裁との間で「解決せざるをもって、解決したとみな
す」との密約を交わし、国交正常化のネックとなっていた帰属問題を処理したのです。
棚上げ自体は悪い解決策ではありません。領土をめぐる対立があるがゆえに正常な関係が築けない−−それなら棚上げにしていいのです。ですが、この時の日
韓両政府は植民地支配の謝罪と補償という最も大切な問題まであいまいにしてしまいました。
こうしたいきさつがある以上、韓国民衆が竹島問題で日本に憤りを示すのは仕方のないことです。尖閣もそうですが、日本政府が侵略戦争や植民地支配の清算
と真摯に向き合わない限り、領土問題は未解決の戦後処理として摩擦の火種であり続けるでしょう。
軍拡に利用する連中
古来より、領土をめぐる国家間の対立は双方の国民感情をいたく刺激します。抜き差しならない事態に発展し、武力衝突に至った事例は多々あります。戦争は
絶対に避けねばなりません。相手国を刺激し、不要な対立を激化させる行為は愚の骨頂です。
ところが、権力者たちは往々にして自分の願望を実現するために領土問題を煽ります。「弱腰外交」を批判し、憲法破棄論を唱える石原慎太郎(都知事)なん
かが典型ですね。あるいは、対外関係を緊張させることで自身の国内基盤を強化しようとする者がいます。韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領なんて滑稽
じゃないですか。
また、日本政府や米国政府が尖閣問題を利用して米軍の新型輸送機オスプレイの沖縄配備に合意を取り付けようとしていることは明らかですし、中国政府だっ
てこの問題を軍拡に利用しています。こうした紛争で利益を得る連中のたわごとに踊らされるほど馬鹿げたことはありません。軍拡競争で民衆に何の利益がある
というのですか。
台湾の馬英久総統は、主権問題とは切り離し、日中台で資源を共同開発するメカニズム構築などを呼びかける「東シナ海平和提案」を新たに発表しました。こ
のように、領土問題を棚上げにした形で、資源の共同開発や自由漁業海域の設立など、双方にとって利益となる方策を見出すことは十分可能です。
排他的権益の奪い合いではなく、友好と相互利益の関係づくりを−。これが平和憲法を抱く日本の責務なのです。
(M)
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