2013年02月08日発行 1267号

【どう見るアルジェリア人質事件/人命を利用するイスラム主義勢力/権益確保のための「対テロ戦争」を続けるグローバル資本】

  「血盟団」と名乗るイスラム主義勢力の1グループが1月16日早朝(現地時間)、北アフリカ・アルジェリアの天然ガスプラントを襲撃し労働者多数を拘束す る事件が起こった。アルジェリア政府は軍により鎮圧。日本人10人を含む人質・犯行グループ計80人が死亡した。日本人の安否確認に終始するマスコミ情報 からは事件の真相が伝わってこない。一方、この事件を利用し「邦人保護」を名目にした自衛隊派兵拡大・武器使用緩和の動きがある。どう見たらいいのか。

テロの犠牲者は?

 襲われた施設は、アルジェリア南東部、リビア国境近くにある天然ガスプラントだ。アルジェリア国営企業ソナトラックと英石油大手BP社など外国企業との 合弁会社が操業している。日本の大手プラントメーカー「日揮」は管理運営を請け負っていた。アルジェリア政府によれば、プラント近くに建設された居住区に は事件当日、26か国134人の外国人を含む790人がいたという。

 「血盟団」は、外国人ばかりでなくアルジェリア人も含め数百人を拘束。プラントに爆弾を仕掛け、アルジェリア政府に要求の実現を迫った。アルジェリア政 府は交渉に応じず、翌日、軍隊による掃討作戦を開始。4日間にわたる戦闘の結果、武装集団32人と日本人10人を含む外国人48人の人質が死亡した (1/21ロイター)。人質が乗った車両をアルジェリア軍が空爆したとの証言もある。

 日本で報道されるような「テロ組織が日本企業や日本人をターゲットにし、人質を惨殺した」事件ではない。

 「血盟団」の目的は何だったのか。犯行グループは米政府に対し93年のニューヨーク世界貿易センター爆破事件受刑者の解放を、仏政府に対し隣国マリへの軍事介入停止を求めたという。

 マリ共和国は旧フランス植民地。60年の独立後、マリ北部からアルジェリア、ニジェールにまたがる居住地を持つトゥアレグ人を主体とした分離独立運動が続いていた。そこにイスラム主義勢力が加わり、マリ北部を制圧。12年4月、独立宣言を発した。

 フランス軍はマリ政府の求めに応じる形をとり、1月11日に約2千人の地上部隊を派遣、空軍は反政府勢力の拠点を空爆した。アルジェリア政府は当初、仏 軍機の領空通過を認めなかったが、13日には容認に転じた。翌14日の爆撃で子ども3人を含む市民10人が殺された。「血盟団」はこれに抗議し、アルジェ リアの施設を襲撃したとされる。

 だが、人命をもてあそぶテロ行為は決して正当化することはできない。


資源を巡る争い

 フランスがマリに軍事介入したのは、イスラム主義勢力が拠点とするマリ北部に金・ウランなどの資源があるからだ。隣国ニジェールには仏原子力大手アルバ社のウラン製造施設がある。仏軍はこれを守るために特殊部隊の派遣を決めた(1/24ロイター)。

 この地域での権益確保のために英・米も仏軍支援を名乗り出ている。米軍は仏軍兵士を輸送し、無人偵察機の投入も計画。英軍も参戦準備中だ。

 アルカイダをはじめイスラム主義勢力のテロ集団は、アフガニスタンでソ連侵攻に対抗させるために米国が育て上げた歴史がある。彼らは、アフガンからイラ クへ、そしてシリア、リビアの反政府勢力の中に活動の場を移していった。マリの武装勢力もかつて米国が訓練をしたグループだといわれる(1/15デモクラ シーナウ)。

 犯行グループが拠点としているマリ、アルジェリア、ニジェールにまたがる地域は、アフリカの「アフガニスタン」の様相を呈している。アフリカでは米国に 代わりフランスが「対テロ戦争」の先頭に立ち、資源・権益を守るための軍事支配を強めている。今回のアルジェリアの事件は、その延長線上で必然的に引き起 こされた。

民衆運動の圧殺

 武力行使を正当化する「対テロ戦争」は、一方で民衆の闘いを弾圧する役割を果たす。

 チュニジアに始まるアラブ民主主義革命の息吹は、アルジェリアにも及んでいた。チュニジア「ジャスミン革命」のきっかけとなった青年の焼身自殺から12 日後、2010年12月29日、アルジェリアで住宅不足に抗議する大規模なデモが行われた。翌年1月にも食料価格高騰に抗議するデモが続いた。焼身自殺す る青年も相次いだ。チュニジア同様、若者の失業率はことのほか高かった。

 アルジェリアは硫黄分の少ない良質な石油を産出するアフリカ有数の産油国だ。天然ガスはパイプラインで欧州に送られている。価格高騰で恩恵をこうむって いるが、国内の貧富の差は拡大した。71年に国有化された石油資源を現ブーテフリカ大統領は05年に民営化、外国資本投資の道を開いている。「任期5年で 再選1回のみ」の憲法を改正し、事実上終身大統領制を可能とした。

 アルジェリアは民衆の声を強権で抑え込む軍事独裁国家だ。ブーテフリカ大統領がとった強硬策は、自らの政権基盤を軍事力で守ったに過ぎない。

 安倍政権は今回の事件を利用し、武器使用・海外派兵のハードルを下げようと自衛隊法の改悪を狙っている。すでに東アフリカのソマリア、南スーダン、ジブ チには自衛隊を駐留させている。資源大陸アフリカをターゲットに本格化する権益争いに乗り遅れまいとするものだ。イラク戦争から10年、「対テロ戦争」が 多くの市民を殺害したことを忘れてはならない。


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