2013年04月12日発行 1276号

【どくしょ室/タックス・ヘイブン 逃げていく税金/志賀 櫻著 岩波新書 本体760円+税/税金逃れのカラクリ暴く】

 タックス・ヘイブンとは一般に「税金がない、あるいはほとんどない国や地域」のことを指 す。ヘイブンは「避難港」という意味の英語。税金(タックス)から逃れたい者からすれば、そこへ行けば課税という嵐から避難できるので、こういう言葉がで きた。

 このタックス・ヘイブンは、富裕層や大企業の税金逃れに使われるだけでなく、犯罪の収益やテロ資金の隠匿・移送に使われ、世界経済を揺るがす巨額の投機 マネーの供給源になっている。その結果、「一般の善良かつ誠実な納税者は、無用で余分な税負担を強いられ、犯罪やテロの被害者となり、挙句の果てにはマ ネー・ゲームの引き起こす損失や破綻のツケまで支払わされている」のである。

 タックス・ヘイブンには、(1)まともな税制がない(2)固い秘密保護法制がある(3)金融規制やその他の法規制が欠如している、という特徴がある。有 名な例としては、カリブ海に浮かぶケイマン諸島(英国の海外領土)がある。ここでは、所得や利益、財産、債券や株式などの資産益、売上、遺産、相続は非課 税である。

 日本の企業が何か新しい金融事業計画を作ろうとするときは、ほぼ必ずこの地に法人を作る(ケイマン諸島は日本の直接海外投資の仕向地の第3位)。ケイマ ン法人を通せば、租税回避や規制逃れといったメリットがあるからだ。

 ただし、「タックス・ヘイブン=椰子が茂る南の島、もしくは小国」というわけではない。実は、ロンドンやニューヨークの金融センターこそ、最も強力な租 税回避地の役割を果たしている。たとえば、ロンドン市内のシティは、当局の規制が及ばないという点で、タックス・ヘイブンと同様の機能を持っている。

 そして、英国政府はこれを取り締まるどころか保護している。賭博に例えると、博打の場所を貸すカネがたんまり入ってくるからだ。実際、シティは英国の GDP(国内総生産)の20〜30%を金融で稼ぎ出しているとされる。

 米国にも東部デラウェア州などの国内タックス・ヘイブンが存在する。企業への法規制が緩いこの州には、フォードやGE、グーグルなど世界に名だたる企業 の本社が多数置かれている。

 米国の内国歳入庁によると、2001年のタックス・ギャップ(本来納付されるべき税金と実際に納付された税金の差額)は、3450億ドル(約30兆円) にも上る。こうした税金逃れのしわ寄せは、税負担増や福祉の後退という形で「額に汗して働く一般市民」に及ぶ。タックス・ヘイブンの存在が貧富の差の拡大 に拍車をかけているのだ。

 驚くべきことに、日本政府はタックス・ギャップの推計すらしていない。グローバル企業や富裕層の脱税・租税回避行為が見過ごされ、市民は消費税率引き上 げで負担を強いられるなんてどう考えてもおかしい。本書はタックス・ヘイブンのからくりと害悪を知る一助となる。    (O)
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