2013年05月03・10日発行 1279号

【どくしょ室/3・11とチェルノブイリ法 再建への知恵を受け継ぐ/尾松亮著 東洋書店 本体 1800円+税/先例に学び包括的な支援法を】

 東京電力福島第一原発事故から2年。「どこまでが被災地なのか」という法的な 取り決めはいまだ整備されておらず、被災者の権利も明確に定められていない。被災地の位置づけと被災者の権利を 法律で定めなければ、長期に渡る被害補償を実行することはできない。

 本書は、チェルノブイリ原発事故(1986年)の被災者に対する包括的な援護法、通称チェルノブイリ法の全容 を現地取材したものだ。日本での制度づくりにあたり、学ぶべき実例が多数紹介されている。

 ロシアのチェルノブイリ法は、(1)どこまでが被災地域なのか(2)原発事故の被災者は誰なのか(3)誰にど のような支援が認められるのか、という基本ルールを国として定めた法律だ。その特徴は2点。まず、「住民の平均 実効線量1ミリシーベルト/年」を何らかの措置をとる介入基準として法律に定めたこと。次に、「住み続けるか移 住するか」の選択が認められた地域を設定したことである。

 チェルノブイリ法では、「一般住民の平均実効線量が年間1ミリシーベルトを超える」などの基準にあてはまる地 域であれば、住民に対して何らかの補償が約束される。また、この「1ミリシーベルト/年」が、被災地からの「移 住権」を認める基準になっている。

 移住の権利は、主に「引っ越し費用の支給」「移住先での雇用保障」「住宅支援・不動産の補償」という3つの分 野で定められている。シングルマザーや健康上の問題を抱える移住者には追加的なサポートがある。移住を希望する 市民にとって必要な支援が詳しく法律に書き込まれているのだ。

 一方で、汚染地域に住み続ける権利も認められている。「退去対象地域」の居住者には「汚染地域に住むリスクに 対する補償」が行われる。具体的には、月額の補償金や健康保護のための様々な施策、年金の早期支給などがある。

 ただし著者の取材によれば、「月額補償金」や「食費補助」などの制度は、金額の見直しやインフレの進行などに よって、被曝リスクを低減するには不十分なものになっているという。被災者支援の制度設計にあたり、十分考慮し なければならない点であろう。

 日本では昨年6月、「原発事故子ども・被災者支援法」が制定された。そのこと自体は大きな前進だが、実際にど こを「支援対象地域」とするのか、明確な基準がまだない。基準がなければ支援法が定めた「避難の権利」や「医療 費の減免」も絵に描いた餅だ。

 著者は、「唯一の先例」であるチェルノブイリ法が定めた「1ミリシーベルト/年」の被曝基準をもとに、「支援 対象地域」を定めるべきだと力説する。

 被災者の立場に立った支援制度づくりを急がねばならない。その運動を進める者にとって、本書は必読の一冊であ る。   (O)
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