2013年06月14日発行 1284号

【こどもたちを守る小児科医の集い 寄稿 医療問題研究会 高松勇さん 日本小児科学会で低線量被曝の 危険訴え 「150mSv見解」は削除、撤回に】

 4月20日、被爆地広島で第116回日本小児科学会が開催された。参加した医 療問題研究会の仲間は、全国の小児科医に低線量被曝の危険性を広く訴え、福島県での甲状腺がん患者の多発(10 名発生)を受けて何をすべきかを「4・20こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」を開催して議論 した。


パンフレット700部配布

 学会では、ポスター発表を4演題行い、低線量被曝の危険性、甲状腺がん多発の危険性を広く訴え、注目を受け た。また、「全国小児科医の集い」に向けて、集会案内ビラ1千枚を学会参加者に配布し、岡山大学津田教授の論文 を中心としたパンフレット700部を手渡した。

 パンフレットや集いでは、以下の内容を広く訴えた。

(1)100mSv(ミリシーベルト)以下ではがんなどの健康障害が確認できないとする「100mSv閾値(し きいち)」説を主張しているのは、ICRP(国際放射線防護委員会)も含め世界の学会、政府機関の中で日本の学 会と政府だけであり、それは医学的データからも科学的事実に反する欺瞞(ぎまん)である。

(2)甲状腺がん10名の多発は通常あり得ない確率であり、極めてまれな現象が起こっている。福島県では数年後 に甲状腺がんの爆発的増加が生じる可能性があり、福島よりも汚染が低い地域でも人口が多いと甲状腺がん多発の可 能性がある。

(3)相当量の初期被曝を考えれば、さらに今後、甲状腺がんだけでなく、白血病や様々な小児がん、妊娠―出産の 異常、先天性障害など様々な病気が増加することが懸念される。

(4)それまでに国や県が事実を認めなければ、多くの子どもたちの命や健康が犠牲にされてしまう。全国の小児科 医からの子どもたちの避難のための支援が緊急に必要である。

 パンフレットの中の津田教授の論文は、私たちが主張してきた低線量被曝の危険性や甲状腺がん多発の重大性が科 学的に厳密に述べられており、主張を伝えていく上で大きな力になった。

 日本小児科学会は「統計学的には、約150mSv以下の原爆被爆者ではがんの頻度の増加は確認されていませ ん」と、低線量被曝の危険性を否定する見解(150mSv見解)をホームページ上で広く公開していた。私たちは その撤回を求めた。小児科学会長に質問し追及したところ、「150mSv見解」について検討し回答するとの返事 を引き出した。

放射能健診が重要

 その約1週間後には、小児科学会のホームページから「150mSv見解」が削除された。同時に、小児科学会も 作成にかかわった同様の日本学術会議の提言も削除。ホームページ上での撤回は正式の撤回ではないが、市民に“宣 伝”ができなくなったという意味で実質上の撤回に近い意味を持つ大きな成果であると考える。

 矛盾点である「100mSv閾値」説の欺瞞を暴き追及していけば、相手に主張を撤回させうる事実を示したこと は大きな意義があった。また、小児科学会に対し、低線量被曝に関して自ら科学的なデータを独自に調査し、真実を 学会員をはじめすべての市民に伝え、子どもの健康を第一においた活動をすべきことを求めていく活動の重要性をあ らためて確認できた。

 残念なことに今後様々な健康障害が予想される中で、放射能健康診断をはじめ健康障害を明らかにさせる活動の重 要性が増している。小児科学会への取り組みの中で見えてきた、放射線被曝から全国の子どもたちを守る課題に、小 児科医の仲間と共に応えていきたいと思っている。


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