2013年06月28日発行 1286号

【ドクター林のなんでも診察室 甲状腺がん大発生兆候をごまかす】

 「甲状腺がんの子、診断確定12人に」―マスコミは、福島県「健康管理調査」 2011年度・12年度の中間発表についてそろってこう報じました。実は、12人というのは除去手術をした子の 数です。それに加え、針生検(はりせいけん)という精密な検査でがんが判明した子が15人います。16人もがん が見つかった12年度では、2次検査終了者が対象者のわずか4分の1ということも隠されているのです。

 今回の発表で重要なのは、12年度に検査をした地域が福島市や郡山市など年5mSv(_シーベルト)程度の 「低線量被曝」とされてきた地域であることです。この地域で甲状腺がんが多数発見されたことは、福島県全域や他 府県でも甲状腺がんの「アウトブレイク(大発生)」(岡山大学津田敏秀教授)が考えられる重大な事実なのです。

 ところで、11年度では4万764人が検査を受け、精密な2次検査予定者中、終了したのは約8割です。他方、 12年度は13万4735人が検査を受けましたが、2次検査予定者935人中終了したのはたった223人、4分 の1にすぎません。今後検査が進めば16人の4倍、60人以上のがんが発見される可能性があるわけです。

 これらを考慮すると、11年度は、検査者約3千人に1人が、12年度の地域では約2千人に1人にがんが発見さ れる計算になります。ちなみに、チェルノブイリ周辺で発病が最多となる被曝後5〜10年後に山下俊一らが実施し た、福島と同様の超音波による調査で、最もひどい汚染地区のゴメリ市で約500人に1人、他の汚染地域では福島 の今回調査の半分以下、約4800人に1人の発見だったのです。

 また、12年度調査対象の郡山市では2次検査予定者442人中、たった3人の検査で2人にがん、二本松市では 2次検査終了者9人中4人ががん、など今後のいっそうの多発を示唆するデータも出ています。

 これらは、様々な要因を念頭に置いても異常に高いがん発見率です。県や専門家などが主張する「高性能の超音波 機器で症状のない『潜在がん』をたまたま発見しただけ」「被曝から4〜5年経っていないから被曝の影響はない」 などで説明がつくものではありません。彼らの言い訳は、チェルノブイリ事故後の多数の研究でも、前述の津田氏の 分析でも否定されたものばかりです。

 国や福島県は、検査結果をごまかすのではなく、詳しい分析ができるデータを公開すべきです。また、避難をはじ め子どもの健康を守るための被曝軽減の行動をただちにとり、発病者への十分な補償を行うべきです。

    (筆者は、小児科医)
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