2013年08月02日発行 1291号
【原発民衆法廷 東京最終法廷で判決言い渡し 原発廃止の実行を世界に日本政府に発信】
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7月20、21の両日都内で、原発を問う民衆法廷の第10回最終法廷が開かれ
た。最終判決は、原発廃止、核兵器廃絶への取り組みを日本政府と国連諸機関を含む世界に向かって強く促した。

放射能と共存できない
呼びかけ人を代表して伊藤成彦中央大学名誉教授は「安倍内閣は再稼働へ圧力を強めている。原発をなくせという
判決を手にして全世界と智恵を合わせて地球から核を追放しよう」とあいさつ。
意見陳述は7人が行った。オーストラリアのピーター・ワッツさん、台湾のシナン・マヴィヴォさんはいずれも先
住民としてウラン鉱山と核燃料最終処分場の放射能被害の実態と闘いを報告。ウクライナのヴァレンチン・シテフォ
ルク・ビクトロビッチさんはチェルノブイリ原発事故の後遺症で家族を失った悲しみを証言した。(発言要旨別掲)
採掘から処分までの全過程が人類の生存を脅かし、地域社会を破壊する。放射能との共存はありえないとの怒りが法
廷を包んだ。

福島原発事故被害者の武藤類子さんは「(除染の)目標値を上回っていても『二次除染はしない。自己管理で暮ら
せ』と国は言い、放射性廃棄物の焼却も始まろうとしている。避難者の支援は打ち切られ、『子ども・被災者支援
法』には1円の予算もつかない。県は20年までに全員を元に戻すと決めた。福島に封じ込めて終わらせようとして
いる。東電や官庁が何の責任もとらないままに再稼働と輸出が進められようとしている。真実を究明し被害を食い止
め、この国のありようを変えていかなくては」と述べた。

フクシマを忘れない
原発で配管工として働いてきた斉藤征二さんは「原発の再稼働はさらに健康被害を増大させる。命の切り売りをし
て原発を支えている下請け労働者の使い捨ては許さない」と日々被曝を拡大する原発の非人間性を訴えた。
広島の被爆者・神戸美和子さんと韓国人被爆2世のハン・ジョンスンさんは、自身や家族の健康被害の実態を伝
え、認定を拒む日本政府の不道徳性を告発した。「フクシマを忘れない、ヒロシマ、ナガサキを忘れない」「韓国政
府は原発が安全だと言うが、嘘だ。私たちがその証拠」
証人尋問では2人の法学者が原発の違法性を明らかにした。浦田賢治早稲田大学名誉教授は「兵器に容易に転用で
きる原発を、隠蔽し、嘘をつき、事故を見くびって進めてきたことは陰謀・共同謀議といった犯罪類型にあたる。原
子力発電は存在自体が人道への犯罪」。澤野義一大阪経済法科大学教授は「原発は幸福追求権、環境権、居住権、学
習権などほとんどの人権規定に違反するばかりではなく、何万年も続く汚染は将来の国民の権利も侵害する」と指摘
した。
日本政府、国際機関などに原発廃止の実現を求める28項目に渡る判決が言い渡された(要旨別掲)。
【原発を問う民衆法廷判決要旨】
◆日本政府に対して
・原発全面廃止に向けた政策プロセスを明らかにせよ。
・原発禁止条約案を作成し、国連総会に採択提案を行え。
◆国際機関に対して
・WHO(世界保健機関)は人為的被曝線量基準を制定し、予防原則に立つ医療支援を。
・ILO(国際労働機関)は廃炉作業に向けて安全基準を明確化せよ。
・UNESCO(国連教育科学文化機関)は子どもの教育を受ける権利に原発が与える影響を再評価せよ。
・IAEA(国際原子力機関)は原発が過酷な人権侵害を引き起こすこと、平和利用は存在しないことを認め、核廃
絶・原発廃絶に向けて組織改革を行え。
◆国連加盟国に向けて
・国連加盟各国は国連総会において核兵器廃絶条約、原発禁止条約を採択するために努力せよ。
◆民衆法廷全関係者に対して
・本判決を社会に普及し、脱原発運動を発展させるために努力せよ。
・居住地域における住民主権の実現、反原発条例制定へ自治体・議会に働きかけよ。
・ウクライナ、オーストラリア、台湾を含む全世界のNGO等の協力を得て、原発を問う世界民衆法廷の開催への議
論を高めるよう努力せよ。
(7面に判事団個別意見)
【ピーター・ワッツさん(オーストラリア反核連合共同代表) ウラン採掘、核廃棄物処理の停止を】
私たちアブラナ族(先住民アボリジニ)は、1950年代にオーストラリアとイギリスが核実験をしたマラリンガ
砂漠の東に暮らしている。爆発地点からの風によって家族が被曝した。祖母は34歳の若さで亡くなった。弟夫妻は
なかなか子どもができず、もう一人の弟は生後4日で死んでしまった。妹は赤ちゃんの頃に骨髄腫があって子どもは
つくれないかもしれない。
ウラン採掘は、深刻な環境問題を引き起こしている。ウラン鉱山を所有する鉱山会社は法律に縛られない。
しかし、オーストラリアには、原子力産業に対する非常に強い反対運動がある。ハワード政権が南オーストラリア
州に核廃棄物の投棄場所を設置しようとしたが、2004年にアボリジニや地域住民、州政府、地域自治体、労働組
合、健康・環境保護団体の強い反対にあって頓挫した。オーストラリア反核連合は北部特別州のジャビルカ鉱山の停
止運動で成功をおさめた。
現在もアボリジニは、ウラン試掘、新しい鉱山採掘計画、廃棄物処理場計画に直面している。危険な原子力産業を
日豪両国で停止させるために、両国の反核活動家が協力し合える機会を作り出していくことを望んでやまない。

【ヴァレンチン・シテフォルク・ビクトロビッチさん(チェルノブイリ原発事故被害者遺族)甲状腺がんの息子は亡
くなった】
息子の甲状腺がんはチェルノブイリ事故の影響だと診断された。日本の市民の支援で息子の友達の多くが保養に
行ったが、何人かすでに亡くなっている。ベラルーシのサナトリウムでの保養から帰ってくるのを出迎えたとき、当
時12、13歳の子どもたちがみな首に甲状腺がん手術の跡があるのを見るのは辛かった。
息子は97年、フランスで4回目の手術を受けたあと銀行に就職した。しかし、障害の再認定を受けた08年に甲
状腺がんが見つかり、仕事をやめて治療に専念した。精密検査のためにトルコ、専門治療を受けるためにキエフにも
行ったが、手遅れで放射性ヨウ素による治療を受けた。
「自分は強い人間だから最後までがんばるよ。まだ若いし、頑張っていれば医者が特効薬を開発してくれるだろ
う」。そう息子は語っていたが、私が付き添っているときに亡くなった。病気について息子が友達に話すことはな
く、その死を知った友達は大変ショックを受けていた。
妻は一昨年の12月に亡くなった。息子に付き添って病院に通っていたが、ストレスや緊張も多く心臓が悪くなっ
た。もうすぐ58になる私は一人になった。
日本でも二度とこのような事故が起こらないように、みなの健康を祈っている。

【シナン・マヴィヴォさん(台湾・蘭嶼基金事務局長) 核廃棄物を作り出す原発は反対だ】
蘭嶼(らんしょ)島には4千人余りのタウ族が住んでいる。十数万本もの核廃棄物の貯蔵施設がある台湾唯一の島
だ。タウ族には「核廃棄物」という言葉がなかったので先祖は「悪霊」と呼んだ。
30年前に核廃棄物を運び込むバースが作られた。缶詰工場を建てるためと言われていたが、搬入されたのはドラ
ム缶約1万本の核廃棄物だった。
チェルノブイリ事故後、台湾で初めて反原発運動が起こった。95年には貯蔵施設の拡大計画に対し、全島民が石
を持ってバースを埋めようという行動にも取り組んだ。台湾本島からの核廃棄物持ち込みを防ぐことに成功し、持ち
込んだ核廃棄物を持ち帰らせることを約束させたが、まだ約束は守られていない。
2年前、貯蔵施設から放射性物質が漏れていることがわかった。蘭嶼島のがんの罹患率は台湾全体でも非常に高
い。
女性の島民が「二度と福島の悲劇を繰り返してはならない」と呼びかけた。先祖が残した蘭嶼島の素晴らしい文化
と伝統を残していきたい。子どもたちの未来を奪う権利がだれにあるのか。
台湾政府は私たちの喉元をつかんでしゃべらせようとしなかった。国際的な団結や連帯で抵抗していくことが大切
だ。人として、バカにされてはいけない。怖い核廃棄物を作り出す原発には反対し続けなければならない。

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