2013年10月25日発行 1302号

【安倍「国家戦略特区」法案/違憲・無法の首切り特区/臨時国会で成立狙う】

 政府の国家戦略特区ワーキンググル―プ(以下、WG)は、労働基準法適用を除 外する「雇用特区」の導入へとひた走っている。「特区」とは国内の特定地域を指定して各種の規制緩和や優遇措置 を適用しようというもの。最終的な狙いは解雇の全面自由化と労働時間規制の撤廃だ。「首切り特区」「ブラック企 業特区」に道を開く特区法案を安倍政権は臨時国会に提出、成立させようと企てている。

 WGは(1)有期雇用(2)解雇ルール(3)労働時間の3つの規制について適用除外の特例措置を求めている。 「開業後5年以内の企業の事業所」は(1)(2)の特例を、「外国人比率が30%以上の企業の事業所」はすべて の特例を受けることができる。

雇い止めの自由

 現行労働契約法では「有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の 定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる」となっている。

 WG案は、雇用契約時の労働者側の申し出により無期転換の権利を放棄することを認めるというものだ。

 「労働者の申し出により権利放棄」と、一見、労働者側に選択権があるようにみえる。だが、使用者が有期雇用契 約をむすぶのは、雇い止め=首切りが容易だからであり、特例の下では「無期転換の権利放棄」をしない労働者はは じめから雇わない。結果、すべての有期雇用労働者が「自ら権利放棄する」ことを迫られる。

解雇の自由

 (2)の解雇ルールでは、「解雇の要件・手続きを雇用契約で明確化できるようにする」という。これは首切りの 自由化に道を開くものだ。

 通常、解雇要件は就業規則で決められる。フルタイム、パートタイムを問わず常時10人以上の労働者を雇う事業 所では就業規則を作成し、労働者代表の承認を得て、労働基準監督署長に届けなければならない。就業規則は法令、 労働協約に反してはならず、違法な解雇規定はチェックがかかる仕組みだ。

 だが、雇用契約書で解雇要件が決まれば、監督機関や労働組合などの第三者が介入する余地はない。しかも、雇用 契約書の解雇要件が法令よりも優先し、裁判の判断基準となるよう法律に書き込むというのだ。

 労使関係では使用者が圧倒的に有利だ。当事者間の合意がすべてである民法の規定では、労働者が交渉できる範囲 は限られる。だから、労働基準法をはじめとする労働法で保護する仕組みとなっている。それでも不当解雇が横行 し、数々の解雇争議の判例を通じて整理解雇4要件(解雇の必要性、解雇回避努力義務の履行、人選の合理性、解雇 手続きの妥当性)が確立されてきた。労働契約のみで解雇要件を定めることは、獣の檻に労働者を丸腰で投げ込むに 等しい。

奴隷労働も解禁

 (3)労働時間規制の適用除外は「労働者が希望する場合、労働時間・休日・深夜労働の規制をはずして、労働条 件を定めることを認める」というもの。現在でも、裁量労働制など実労働時間にかかわらずあらかじめ労使で決めた 時間を労働時間とみなす「みなし労働時間制」がある。しかし、休憩時間、休日、割増賃金の適用を受ける。

 特区は、これらの規制を一切はずして、労働者を1日に何時間でも、ひと月に何日でも無制限に働かせることを可 能とする。「ブラック企業」に免罪符を与える制度だ。

 労働時間規制は世界の労働者が闘いの中で勝ち取ってきたものであり、非人間的な長時間労働から労働者を解放す るものだ。だが、日本は国際基準であるILO(国際労働機関)条約のうち労働時間や休日に関する条約は一つも批 准していない。労働時間規制では全くの後進国だ。その日本の労働時間規制すら適用しないことなど許されない。

人として生きる権利を破壊

 特区案の対象従業員は、弁護士・公認会計士など専門資格を有する人、修士号・博士号を取得した人とし、対象事 業所も制限される。しかし、これはまやかしであり、蟻の一穴だ。

 貧困の元凶である労働者派遣法は、1986年、13の業務に限るとして派遣労働者の受け入れを認めた。以降、 対象業務の拡大を繰り返し、現在は原則自由となっている。同様に、特区での実績を口実に全国一律、すべての労働 者を対象として、無制限の奴隷労働と首切り自由の実現を安倍は狙っている。

 現に安倍は今年7月、本社が特区内にあれば特区外の支社・営業所でも労働法の適用除外を認めると述べている。 特区は東京・名古屋・大阪などの大都市を対象としており、グローバル資本がその恩恵を受ける。

 3つの適用除外はすべて労働者の申し出や合意を要件とするが、労使の力関係の差で労働者は「自ら申し出、ある いは合意すること」を強いられる。そうしなければ、仕事に就けないからだ。労働法は労働者が人として生きる権利 を守るものだ。基本的人権である労働権・生存権を踏みにじる憲法違反の「雇用特区」は許されない。


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