2014年01月03日・10日発行 1312号

【本当のフクシマ/原発震災現場から/第46回/避難区域再編を終えた福島の現状/住民を引き裂いた責任は政府に】

 原発事故発生直後、政府(菅政権)は福島第1原発からの距離を基に、半径20キロメートル以内を警戒区域とした。半径20〜30キロメートルは屋内待避区域となり、その後緊急時避難準備区域となった。避難区域を単純に原発からの距離で設定したのは「放射能がどちらに飛散するかわからない段階ではやむを得ない」というのが言い分だ。

 事実は違う。3月11日当日から文科省、経産省保安院はSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測システム)による放射性物質の汚染予測情報を持っており、それに基づく避難区域の検討も進めていた。だが、原子力災害対策本部が距離による避難区域を発表する中で、汚染予測情報は住民には隠したままとなった(2011年10/27朝日「プロメテウスの罠」など)。

帰還強制に利用

 その後、2011年4月になって、来日したIAEA(国際原子力機関)チームから、飯舘村など30キロメートル圏外の放射線量の高い地域を避難区域に指定するよう勧告を受けた日本政府が計画的避難区域を設定した。

 これらの避難区域は徐々に再編が進み、今年8月の川俣町を最後に再編を終えた。現在の避難区域は図の通り3つに分かれる。



 帰還困難区域は、5年後も帰還が難しいと考えられる区域だ。具体的には1年間に被曝線量が50ミリシーベルトを超える地域で、政府の許可なく立ち入りができない。居住制限区域は20ミリシーベルトを超え50ミリシーベルト以下で、宿泊は禁止されるが日中なら自由に立ち入りできる。避難指示解除準備区域は20ミリシーベルト以下の地域であり、名のとおり、政府の基準では「帰還」すべき地域だ。

 汚染状況を基にした避難区域の再編そのものは避けられないが、問題は避難住民に帰還を強制する手段としてこの再編が利用されていることだ。

法の基準も放棄

 先日、自民党「東日本大震災復興加速化本部」が行った提言では、帰還困難区域に対し、ようやく移住を前提とした「生活再建のための賠償」を行う方針が示された。一方で政府は、避難指示解除準備区域はもちろん、居住制限区域まで、除染や自然減衰により放射線量が下がることを見越して、5年後の帰還を目標とする。

 だが、福島市など、政府やメディアのいう「低線量」地域でさえ除染の効果が上がらず停滞している現状を見ると、筆者には5年後の帰還など夢物語にしか見えない。

 それでも、もしこのまま住民が声を上げなければ、政府は予定通り5年後の帰還に向けスケジュールを進めるだろう。政府がIAEAの「助言」を口実に打ち出してきた「個人線量計による被曝管理」はそのための準備であり、「空間線量では20ミリシーベルトを超えていても、人は24時間ずっと屋外にいるわけではないのだから、個人線量計で20ミリシーベルト以下になるのであれば帰れ」と言い出すに決まっている。

 通常時の一般公衆の被曝線量1ミリシーベルトは、ICRP(国際放射線防護委員会)勧告などに従って日本政府が自ら定めた法令上の基準だ。その基準さえ今、投げ捨てられようとしている。住民は帰還を拒否し、帰還困難区域と同様の賠償を求めて当たり前だ。

避難のタブー化に一役

 避難区域指定の問題を巡っては、住民に深い傷跡を残し1年前に解除された特定避難勧奨地点の問題に触れなければならない。

 南相馬市や伊達市霊山地区など放射線量が特に高い地域の世帯単位で避難を促し一定の賠償を行うこの制度では、ほんのわずかな放射線量の違いで隣近所同士が指定対象世帯とそうでない世帯に分かれた。その上、指定地域も避難は強制ではなく勧告に過ぎなかったから、賠償金だけ受け取り実際には自宅にとどまる住民も多かった。ついには賠償をもらったか否かで住民同士が疑心暗鬼になり、隣近所同士であいさつも交わされなくなるほど住民はずたずたに引き裂かれた。

 この特定避難勧奨地点問題は福島県民に爪痕を残し、避難区域の指定で分断が生まれるくらいなら、いっそ全員捨てられるほうがいいという奇妙な空気さえ生んだ。福島県民をもてあそび、絶望に陥れ、避難をタブー化してしまった政府の責任は限りなく重い。

      (水樹 平和)

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