2014年05月02・09日発行 1328号

【どくしょ室/キヤノンに勝つ 偽装請負を告発した非正規労働者たち/キヤノン非正規労働者組合編 耕文社 本体1100円+税/権利は闘って勝ち取る】

 上部団体を持たない非正規労働者だけでつくる小さな組合が、経団連会長を輩出した日本を代表するグローバル企業を相手に大きな勝利を収めた。本書はその闘いの記録である。

 労働争議の報告本は数多いが、本書のように争議当事者自ら執筆したドキュメントが冒頭に置かれたものはめずらしい。キヤノン非正規労働者組合委員長の阿久津真一さんは6年にわたる争議の歩みを振り返り、「非正規労働者が労働者の権利を取り戻していく闘いをしてきたと胸を張って伝えたい」と記している。非正規争議の主人公は非正規労働者自身、非正規労働者が自ら考え自ら声を上げ自ら行動することなしに無権利状態を打ち破ることはできない。本書にはその原則的立場が貫かれている。

 差別と雇い止めの脅しにさらされた非正規労働者が闘い続けるのは並大抵ではない。困難を乗り越える支えになったのは、「幅広い連帯」の力だ。正社員としての雇用を求めた裁判の第1回口頭弁論の日、法廷に入った阿久津さんは「傍聴席に座りきれない数の、私たちのために貴重な時間を割き、仕事を休んで駆けつけてくれた方々の姿」を目にする。陳述の間、「今まで傷ついて心にできていたかさぶたが一気にはがれ、あふれる涙を止められなかった」という。「私たちは決して孤独ではないとあらためて気付かされた。人生で決して忘れることができない日となった。(裁判提訴した)2009年は多くの方と出会い、人生でこんなに人に感謝したことはないという年にもなった」

 正規・非正規の別や企業・雇用形態の違いを超え連帯を大きく広げることの大切さは、龍谷大学の脇田滋教授ら他の本書執筆陣も繰り返し強調している。キヤノン非正規労働者組合を支える会の伴幸生さんは、阿久津さんが月の大半を家族と離れて東京で過ごし、様々な非正規争議の裁判傍聴などに積極的に参加し、垣根を超えた共闘運動にすすんで取り組み共感を育んでいったことが勝利の原動力になったと指摘する。最終局面で開かれた総決起集会(12年12月18日)は、全労連・全労協といった上部団体の有無や違いにかかわらず多くの労働組合・争議団が結集し、闘いを最後まで支えきる決意と気迫が満ちあふれていた。

 安倍政権は非正規雇用を拡大する労働法制の改悪を急いでいる。本書は本棚に飾っておいてはならない。最終章の座談会で、組合員が語る。「この本を読んで勇気づけられて動いて、違う出来事が起きるかもしれない。世の中は今、おかしい。働き方が少しずつでもよい方向に動くきっかけになり、社会を変えようと真剣にやってくれる人が続くといいな、と」

 人をモノ扱いする非正規雇用を許さないと声を上げる人、上げられないでいる人すべてに本書を届けよう。         (A)

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