2014年10月17日発行 1350号

【福島甲状腺がん103人(手術57)をどう見る/「たまたま見つかったがん」ではなかった/甲状腺がん異常多発―アウトブレイクは一層明らか/医療問題研究会・高松勇(小児科医)】

 福島県は8月24日、県民健康調査「甲状腺検査(先行検査)」結果概要を公表した。「先行検査」とは、原発事故による「子どもたちの健康被害を長期に見守るため、甲状腺の状態を把握する」と位置づけられ、今後行う2巡目の「本格検査」と比較する意図を示している。また対象とした18歳以下の子どもで「先行検査」の未受診者がいるため、6月30日現在の結果としている。今回の検査結果について、医療問題研究会の小児科医・高松勇さんに寄稿をお願いした。(見出しは編集部、図表は高松さん提供のものをアレンジ)

前回発表時から新たに14人増加

 第16回福島県県民健康調査検討委員会が8月24日開催され、「甲状腺検査(先行検査)」結果概要が示された。6月30日現在で、甲状腺がん患者が103名にも上ったことが明らかになった(表1)。





 2011年度(原発事故は同年3月)および12年度の検診結果におけるがん患者数は前回(5月19日)の発表から増加していないが、13年度については21人から35人へと増加した(集計が遅れていた会津地方はすべてがそろわず、暫定値として計上されている)。そのうち、いわき市が19人、いわき市を除く南東地区は7人、会津地区は9人となった。会津地区は郡山市に隣接する会津若松市等の会津盆地南部で、8人が観察された。

極めて高い手術実施率

 このうち手術を受けた患者数は57人に上った。今回、これまで明らかにされなかった手術適応が一部報告された。手術を受けた57名の病状は、転移し明らかに悪性度の高いもの、声帯麻痺や気管を圧迫する可能性のあるものであり、臨床的にがん患者であった事実が判明した。

 つまり、これまでくりかえし説明されてきた「超音波検査を実施したから偶然早く見つかっただけで、長期間経過をみても問題ない状態のがん患者」ではなかった。「甲状腺がんは最短で4〜5年で増加したというのがチェルノブイリの知見。(事故後1年半から2年の)今の調査では、もともとあったがんを発見している」(福島医大鈴木教授)「20〜30代でいずれ見つかる可能性があった人が、前倒しで見つかった」(検討委山下座長)という話は真っ赤な嘘だったのである。

 発見された甲状腺がん患者はどれほどの割合で手術されているのか。福島県の場合はどれほど多いのかについて、10万人当たり何人手術を受けたかを表す手術実施率で比較検討してみる(図1)。



 日本全体では、国立がんセンターの全国の推定甲状腺がん発生率(15〜24歳における年間10万人中1・1―1975年から08年の平均)をもとに、全例が手術を受けたと仮定(最も高く推定)してみると、1・1となる。

 福島の場合、事故後検診までの期間に応じて手術件数を年平均して計算すると、11年度が28・7、12年度が14・7、13年度が1・16。11年度と12年度は10倍から20倍以上の高さである。二次検診が確定されていない患者が11年度14%、12年度12%、13年度23%存在し、未受診者が同様の割合で甲状腺がんを発症しておれば増えるであろう甲状腺がん患者数で補正すれば、11年度は30倍を超える。

 いずれにしても福島県では極めて高い手術実施率を示しており、重症な甲状腺がんが多発していることが明瞭に見てとれる。

発生率・発見率とも異常多発

 福島での甲状腺がんは、疫学の専門家・津田敏秀氏の分析によれば、国立がんセンター発表の全国の甲状腺がん発生率と比較して、通常あり得ない異常に高い発生状況であることがわかる(図2)。11年度に健診を実施した原発周囲13市町村では67倍、12年度の中通り二本松市、本宮市で61倍、郡山市で43倍、13年度のいわき市で27倍であった。]



 なお、発生率の比較にあたり、国立がんセンター(15〜19歳における年間百万人中5例)を基準に検討した。福島の事例では、放射線被ばくによる影響の程度を正確に知る目的で、平均有病期間(甲状腺がんがあると分かってから治るまでの期間)を11年度は1年、12年度は2年、13年度は3年として推計している。

 健診による甲状腺がんの10万人当たりの発見率は、11年度が33・5(38・7)、12年度が38・8(44・3)、13年度が30・4(39・5)と県全体で異常に高かった(カッコ内は二次検診確定率で補正した数値。図3)。



 これはチェルノブイリ事故後の甲状腺がんの発見率と比較すると、ゴメリ州の198を除くチェルノブイリ周辺の一部地域で見られた20〜30台に匹敵する程の高さである。

 残念ながら、この事実は検討委が強調する「甲状腺がん患者の福島県内での発生の格差がない」ことを意味するものではなく、福島県全体が会津地方も含め強く汚染されていることを示すものである。

 甲状腺がんは今後さらなる多発が考えられる。それに備えた医療体制や検診体制の整備が急務である。福島近隣県、東日本での健康診断が必要である。また、現在は18歳までとしている年齢枠を設けず、成人年齢層でも健診を実施すべきである。

多様で広範な健康障害に健診を

 漫画『美味しんぼ』は被曝と鼻血の関係を投げかけたが、実際に多様な健康障害が生じている。

 12年の疫学調査(放射線汚染地区の福島県双葉町、宮城県丸森町と非汚染地区滋賀県木本町の比較調査)では、鼻血、狭心症、心筋梗塞、吐き気、疲れやすさ、風邪をよく引くなどで有意に高くなっていた。チェルノブイリ事故調査からは、多くの健康被害が生じることが確認されている。

 今後甲状腺がん以外にも、さまざまな健康被害が明瞭になると考えられる。甲状腺がん異常多発の実態の解明とともに、広範な健康被害の実態を明確にし必要な医療を求める健康診断要求が非常に重要になっている。
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