2014年11月07日発行 1353号

【勢いづく歴史修正策動/まさに「嘘も百回言えば真実になる」/ナチスの手口 実践する安倍政権】

 日本軍「慰安婦」制度という戦争犯罪を消し去ろうとする動きが勢いを増している。外務省ウェブサイトからの関連文書の削除、国連クマラスワミ報告の訂正要請等々。こうした歴史修正策動が国際的に成功する見込みはない。だが、日本国内では「嘘も百回言えば真実になる」おそれがある。それが安倍政権の狙いなのだ。

「中傷」と切り捨てる

 「国ぐるみで性奴隷にしたとの、いわれなき中傷が世界で行われている。(朝日新聞の)誤報でそういう状況が生み出されたのも事実だ」。10月3日の衆院予算委員会で安倍晋三首相はこう語った。国際的に批判されている戦争犯罪を当事国の首相が「中傷」と切り捨てたのだ。

 一連の歴史修正策動はこのような認識にもとづいて行われている。たとえば、外務省は「アジア女性基金」への拠出金を呼びかける文章を同省のウェブサイトから削除した。「10代の少女までも含む多くの女性を強制的に『慰安婦』として軍に従わせた」との記述を問題視したためだ。

 さらに外務省は10月14日、日本軍「慰安婦」制度を「性奴隷制」と認定した国連人権委員会のクマラスワミ報告について、「吉田証言」(注)関連部分の撤回をクマラスワミ氏本人に要請した。

 「河野談話」(注)への攻撃も激しさを増している。自民党の萩生田(はぎうだ)光一総裁特別補佐官は、政府が新談話を出すことによって骨抜きにすべきと発言(10/7)。見直し自体は否定する菅義偉(すがよしひで)官房長官も、河野洋平元長官が談話の発表会見で強制連行を認める発言をしたことを「大きな問題」と批判した(10/21)。

 10月17日の衆院文部科学委員会では、自民党の義家弘介議員が国語辞典の「従軍慰安婦」記述(『広辞苑・第6版』の「日本軍によって将兵の性の対象となることを強いられた女性」など)をやり玉に挙げ、「表現の自由は尊重されるべきだが、(誤った説明を)教育現場に持ち込むことは問題」という下村博文文科相の答弁を引き出した。
 これはもう、言葉狩りとしか言いようがない。軍や官憲による「強制」を表す記述はすべて「日本をおとしめる」ものとして排撃の対象に−。そんな雰囲気が政府によって作り出されている。

世界の非常識だが

 安倍一派の主張は論理的におかしい。朝日新聞が「吉田証言」を虚偽と認めたからといって、どうして「『強制連行』の事実は否定され、性的虐待も否定された」(自民党の国際情報検討委員会が採択した決議)ことになるのか。

 日本人拉致問題でいえば、かつてメディアをにぎわせた「北朝鮮元工作員」証言の信ぴょう性が疑問視されているが(本人が大げさに語ったと認めている)、拉致の事実まで消滅するわけではない。それと同じことである

 日本軍は侵攻したアジア・太平洋地域に軍「慰安所」を設置しており、中国本土やフィリピン、インドネシアなどでは現地女性を暴力的に連行する事例が相次いだ。これらの事実は被害者・加害者双方の証言や戦犯裁判記録ではっきり証明されている。

 そもそも、日本軍「慰安婦」問題の核心は暴力を用いた徴集の有無ではない。ジョージワシントン大学のマイク・モチヅキ准教授が「本人の意思に反し(旧日本兵らとの性行為を)強要されたのなら、結果として性的隷属を強いられたといえる」(10/16琉球新報)と指摘するように、「慰安所」における強制使役が性奴隷制にあたるとして批判されているのである。

 モチヅキ准教授はこうも述べている。「『昔はどこの国もやっていた』との反論も間違いだ。日本はこうした性的隷属行為を禁じる国際条約を批准していたからだ」(同)。これが世界の常識だ。欧米諸国では女性の人権侵害という観点から「日本に同情する余地はまったくない」(シーファー元駐日米大使)との意見が大勢を占めている。

 安倍首相は大使館などの在外公館を通じて外国メディアで「慰安婦問題に関する正しい情報」を発信していく考えを示しているが、「ホロコーストは作り話」「ガス室はなかった」の類いの主張を政府が行うのと同じこと。実行すれば日本の国際的信用は地に落ちるだろう。

戦争遂行を優先

 まともな感覚の政治家なら「これはまずい」と感じるはずだが、安倍政権はまともではない輩(やから)の集団だ。連中にとって緊急の課題は、戦争遂行への国民合意を取りつける上で都合の悪い事実=日本の戦争犯罪をなかったことにすることにある。対外的にどう思われようが、国内で「日本は悪くない」というイメージが定着すればいいのである。

 「慰安婦」問題の事実を語れば右派政治家やメディアに名指しで批判され、朝日新聞元記者のように職場や家族にまで脅迫が及ぶ。こうした物言えぬ空気の中で、安倍政権は「嘘も百回言えば真実になる」を実践している。「ナチスの手口に学ぶ」(麻生太郎副総理)とはこういうことなのだ。       (M)


【注】
・吉田証言
 韓国・済州島で「慰安婦狩りを行った」とする吉田清治氏(故人)の証言。

・河野談話
 1993年8月に、河野洋平官房長官(当時)が発表した「慰安婦関係調査結果に関する内閣官房長官談話」のこと。法的責任や国家補償に言及しない不十分な内容ではあったが、「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた問題である」と認め、被害女性に対し「心からお詫びと反省の気持ち」を表明した。



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