2015年01月16日発行 1362号

【どくしょ室/大城盛俊が語る 私の沖縄戦と戦後 ―軍隊は住民に銃を向けた―/大城盛俊著・刊行委員会編・発行 本体800円+税/子どもや若者に託す平和の思い】

 「鉄の暴風」といわれた沖縄戦の下、逃げまどうさなかで日本兵に家族の食料を奪われ暴行されて右眼を失明する重傷を負った少年。ほどなく米軍に救出された少年に米兵がカメラを向けた。三十数年後、沖縄戦の真相を追う学者が米国国立公文書館の10万枚に及ぶ写真の中からいくつかを買い取って、沖縄戦の写真集を出した。その表紙となったのが「うつろな目の少女」として知られる写真だ。

 少年は戦後、19歳でひとり本土に向かったが、40代になり家族で沖縄に戻る。たまたま入院していた病院でこの写真を見かけ、それが自分だと名乗り出た。(なぜ少女の姿をしていたかは、本書を)

 そして当の学者、大田昌秀氏(のちの沖縄県知事)と出会い、やがて自らの体験を語り伝え始めた。が、苦難は続く。喉頭がんで声を失い、伊丹に移り住んだとたん、阪神淡路大震災で家を失う。しかし…。

 この少年、大城盛俊さんのことを、大田昌秀氏は「戦争を生き延びた沖縄の子どもの象徴」のような「不屈の闘志」を持って生きてきた人だ、と言う。

 「軍隊が住民に銃を向けた」幼い体験。そのことへの怒りを忘れず、一方で生き抜くための冒険に満ちた青年期。子どもには実に優しく、権力を振りかざすものに対しては怒りを抑えない姿勢は今も健在で、その語りは多くの子ども・大人の心を揺さぶってきた。

 大城さんはまた、子ども全国交歓会と沖縄の子どもたちとの交流の架け橋となった。20年を経て、それは韓国・朝鮮などアジアの子どもの文化交流に発展したが、今も熱く支援する。

 現在は体調がすぐれず、講演が難しくなっている。が、沖縄の変わらぬ基地の状況や集団的自衛権を認めた政府への憤りは一段と高まり、子どもや若者に託す思いは募るばかりだ。

 本書は、刊行委員会による半年をかけた聞き取りをベースに書かれた。大城さんの願いに添って、沖縄や沖縄戦のことを知らない人、小中学生や若者にもわかりやすいようにと、図やイラスト、写真、用語解説などが豊富に使われている。「大城さんが暴行を受けた歳と同じ12歳≠ェ読める本を」との思いからだ。話を聞いたことのある人にとっても、戦前・戦後もあわせ初めて知る新鮮なエピソードが満載だ。

 刊行委員会は「本書を広げ世代や理念を越えて戦争と平和を語り合う『風』を吹かせたい」として「手元に1冊、職場や教室・図書館に数冊、お子さんお孫さん・恋人へのプレゼントにも!」と呼びかける。

 知事選での新基地反対派勝利の背景に何があったのか。沖縄と沖縄戦から何を学び伝えるべきかを示唆する本でもある。今だからこそ、いきいきしたユーモアあふれる語りは、平和な未来を拓く勇気をもたらすだろう。     (K)

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