2015年01月30日発行 1364号
【サザンNHK紅白騒動/この程度の風刺も「反日」よばわり/政権批判がテレビから消える】
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サザンオールスターズが「反日パフォーマンス」としてネット右翼の袋叩きに合っている。大みそかのNHK紅白歌合戦で披露した曲の歌詞が「安倍政権批判」と受けとられたからだが、とうとう所属事務所が謝罪文を出す事態に発展した。平和への思いを歌うだけで「売国奴」よばわりされる…。これはもう戦争前夜ではないのか。
安倍批判の歌?
紅白歌合戦で何が起きたのか。1月5日付の朝日新聞は次のように報じている。
《昨年の大みそか、ちょびひげを付けた桑田佳祐さんがテレビ画面に映し出された。横浜での年越しライブ会場からの中継で登場した桑田さんが歌ったのは「ピースとハイライト」だった。
♪都合のいい大義名分(かいしゃく)で
争いを仕掛けて
裸の王様が牛耳る世は…
狂気(insane)
この「都合のいい大義名分」を、集団的自衛権行使容認のための憲法解釈変更に重ね合せて聴いた視聴者らがネットで反応した。曲名を「平和(ピース)と極右(ハイライト)」と読み替えたり、「裸の王様」を安倍晋三首相への揶揄と受けとめたり−−。》
私の見立てでは、桑田はチャップリンの『独裁者』をやりたかったのだと思う。ヒトラーに扮したチャップリンが独裁批判の大演説を行った映画だ(バッシングを受けた後、桑田本人は「ヒトラーのつもりは全くなかった」とラジオ番組で釈明したが)。
2013年に発表された「ピースとハイライト」は歴史認識等をめぐる日中・日韓対立をモチーフにした曲である。紅白では当然、戦争に傾斜する安倍政権を危惧する意味で歌われたはずだ。
もっとも、特攻隊を美化する映画『永遠の0』の主題歌を書いた桑田だ。ネット右翼が言うような「筋金入りの左翼」であるわけがない。自分の曲が戦争勢力に利用されていることを恥じた彼が紅白で一矢報いようとしたのだという説を唱える人もいるが、サザンに詳しいわけでもないので、想像にもとづく好意的解釈は控えたい。
ネトウヨに屈し謝罪
問題は、ネットを中心にわき起こったサザン批判と所属事務所の対応である。
ネット掲示板やツイッターは非難の書き込みであふれかえった。「桑田佳祐があそこまで酷い反日とは…」「二度とカラオケで歌いません。CDも買いません」「もう、サザンファンは止めたよ。民族の自尊心の方が大事だ」「日本が嫌いなら半島に帰れよ、桑田!」等々。
1月11日にはサザンの所属事務所前で抗議行動が行われ、日の丸を掲げた集団が「桑田佳祐の不敬発言を糾すぞ!」などと気勢を上げた。連中は紫綬褒章(昨年11月に桑田が受賞)を使ったライブMCでのパフォーマンスに攻撃の照準を合わせてきた。
これに過剰反応した所属事務所は1月15日、桑田と連名で「深く反省する」との「お詫び」文を出し、事態の鎮静化を図った。「サザンは反日」のイメージをつけられては商売上まずいと判断したことは明らかだが、ネット右翼による言論封殺攻撃への屈服であり、残念でならない。
「お詫び」文は、桑田の行為に特定の団体や思想等に賛同・反対する意図はなかったことをやたらと強調している。この言い訳は政府自民党による言論抑圧の手口を意識したものであろう。
それは「政治的公正中立を求める」と称した圧力だ。衆院選報道をめぐる自民党の要請に示されるように、連中はこの殺し文句を使って、政権批判や反戦平和の言説をテレビから締め出そうとしている。また、政府自民党が直接手を下さずとも、ネット右翼が別動隊となり、ヒステリックな攻撃を仕掛けてくる。
サザンのような「国民的スター」でも、ネトウヨの「反日」攻撃にあっさり音を上げた。この影響は大きい。今後、安倍政権批判をテレビで語ることをタブー視する風潮がますます強まっていくことは目に見えている。
とくにひどいNHK
社会的影響力のある著名人や芸能人が安倍政権の暴走に対して声を上げても、メディアはことさら軽視しようとする。ひどい場合は発言自体を消してしまう。特に、安倍のおともだち人事で会長が変わったNHKで目立つ。
昨年12月3日放送の番組では、俳優の宝田明が自身の戦争体験を振り返り、「日本が間違った道を選択しないように、選挙で、戦争をしようとする人ではなく、そうではない人を選ぶことが大事です」と述べたところ、聞き手のアナウンサーがあわてて発言をさえぎった。
宮崎駿監督のアカデミー特別賞受賞を伝えるニュースでは、「私たちの国は(自分が仕事をしてきた)50年で一度も戦争をしなかった。このことが僕らの仕事にとって大きな力となった」という監督の受賞あいさつを丸ごとカットした(東京新聞の記事はちゃんと伝えている)。
政府の失態を笑いにすることもいけないようで、お笑いコンビの爆笑問題が1月3日放送の演芸番組で披露するはずだった政治家ネタ(小渕優子前経産相らの辞任をからかったネタ)を、「放送できない」と没にしている。
この件に関し、籾井勝人NHK会長は「個人名をあげてお笑いのネタにするのは品がない」「自然とそういうのはやめた方がいいのではないか」と話した(1/8)。これが「政治風刺はやめろ」という圧力でなくて何であろう。
「言論の自由」の危機は外国だけの出来事ではない。サザンの一件は、この国が戦時体制に近づいていることを浮かび上がらせた。 (M) |
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