2015年02月06日発行 1365号
【命を脅かす橋本大阪市政/貧困ビジネス呼び込む生活保護費プリペイド化】
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全国一の生活保護受給者を抱える大阪市。橋下市長は昨年12月26日、一部受給者の保護費のプリペイドカード化(2015年4月実施)を公表した。これは、憲法や生活保護法に反するばかりか、行政自らが貧困ビジネスに手を貸し、受給者の生命に危険を及ぼすものだ。反対運動が広がりはじめた。
大阪市の生活保護世帯数は11万7756世帯、受給者数14万9234人を数える(14年10月)。保護率は55・6‰(単位‰は千分率)で全国平均の17・1‰に比べて3・25倍となっている。市の14年度の生活保護予算額は2944億円で、市民生活を支える重要な施策だ。
橋下市長提唱のこのプリペイドカード化モデル事業は、「『受給者の利便性確保』と『生活扶助費の透明化(利用実態把握)』が合わせて実現可能」(三井住友カード他3社・12月26日プレスリリース)との名目で実施される。
15年4月以降、希望する受給者を対象に食費や日用品購入などに充てられる生活扶助費のうち月3万円をプリペイドカードで支給するというもの。利用明細で支出内容を把握し、「過度の飲酒やギャンブルへの支出を防ぐのが狙い」と橋下は述べる。
憲法、生活保護法に違反
この事業は、まず生活保護法31条1項の「金銭給付の原則」に反する。使用されるプリペイドカード(電子マネー)とは「一定の範囲で金銭債務の弁済としての効力を有するもの」であり金銭ではない。プリペイドカード支給は「金銭給付」に該当しない。
第二に、憲法13条「個人として尊重される」に基づく自己決定権を侵害する。使用明細は生活保護実施機関(福祉事務所)が自由に知ることができる。いつ、どこで、何を購入したのか、食品から生活用品、購入書籍など日常生活が実施機関に把握され、いや応なしに当局に管理・支配されてしまう。
第三に、受給者の日常生活に著しい不便、危険が生じる。
プリペイドカードの使用はクレジット機能付きのレジスターを備える加盟店に限定される。地元商店街のほとんどの店舗や近隣にある顔なじみの小規模小売店、食堂などでは利用できない。有名スーパーかコンビニ各系列店、全国的に名の通ったチェーン店まで行かざるを得ない。足の不自由な高齢者やさまざまな障がい、病気を抱えた受給者にとっては生命にかかわる。
大阪市当局自身も13年9月時点で、「購入先が限定され、近隣の小規模店舗では使用できない可能性がある」としてプリペイドカード化の問題点認めていた。わずか1年半で問題が解消されるわけがない。
大手カード会社の儲け口
今回のモデル事業は、一部独占企業による受給者囲い込みと国家的貧困ビジネスの開始となるものだ。
三井住友カード他3社が「米国ではすでに児童手当や災害手当といった各種給付がVisaプリペイドによって給付されており」(プレスリリース)と言うようにモデルは米国だ。米国では、貧困対策事業に大手カード会社や大手スーパーが参入しボロ儲けしている。今回の事業をきっかけに児童手当などの公的給付金の総カード化、独占化への道を開く。橋下は「本来ならば全員、一定額についてはカード利用にしたほうがよい」と全受給者対象のプリペイドカード化を公言している。
事業の名目とされる「ギャンブルや過度の飲酒(依存症)の対策」には、本来、一人ひとりの状況に応じたきめ細かな支援と当事者自身による日々の生活コントロールが欠かせない。それには息の長い援助が必要となる。現在、生活保護担当ケースワーカーは400名以上の人員不足であり、その解消が先決だ。
生命をつなぐ生活保護費を独占企業の手に渡してはいけない。橋下市政をこれ以上放置すれば、社会保障分野まで企業だけが潤い、市民の命が脅かされることになる。
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