2015年03月06日発行 1369号

【原子力規制委審査書 再稼働ありきの根拠なき「合格」 高浜原発の再稼働は認められない】

 原子力規制委員会は2月12日、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)が新規制基準を満たしているとの審査書を正式に決めた。だが、これは田中委員長自身も認めるように安全を意味するものではない。高浜原発の再稼働にはさまざまな問題が山積みであり、絶対に認められない。

地震動を過小評価

 関電は、想定する地震の最大の揺れ「基準地震動」を550ガル(加速度の単位)から700ガルに引き上げた。だが、原子炉本体を取り替えたものではなく、安全度が高まったわけではない。

 高浜3、4号機の「安全限界」(設備や機器などの機能喪失で炉心溶融事故に至る限界)はもともと973ガルとされており、基準地震動を引き上げたことは安全余裕度が少なくなったことを意味する。

 関電は高浜原発の基準地震動を、世界中の地震の平均値を使う「入倉式」という計算式で算出している。これに対して津波の推定に使われる「武村式」は日本周辺の地震の平均値を使っており、この計算では最大で「入倉式」の4・7倍の地震動になる。

 2007年7月の新潟県中越沖地震の際には、柏崎刈羽原発では基準地震動450ガル(当時)の3・8倍にあたる1699ガルの揺れを観測した。全国の脱原発団体は、原子力安全機構(現在は規制委に統合)が報告書で算出していた1340ガル(M6・5の横ずれ断層による電源近傍での揺れ)を採用するよう求めてきた。これを採用すれば、「安全限度」973ガルの高浜原発は二度と再稼働できなくなる。

 大飯原発差し止め訴訟の福井地裁判決(14年5月)は、関電が基準地震動700ガルを超える地震が到来することは考えられないと主張したことに対し、過去の最大震度が4022ガル(岩手宮城内陸地震)であること、この10年に4つの原発で5回にわたり基準地震動を超える地震があったことなどから、安全限度1260ガルを超える地震は来ないとする科学的根拠はない、と関電の主張を退けた。

 基準地震動を700ガルに引き上げたのは小手先の対応にすぎず、地震動を過小評価する関電とそれを追認する規制委の姿勢は変わっていない。

 また、格納容器の破損防止を目的として、水素濃度を一定以下に抑える爆轟(ばくごう)(注)防止基準というものがあるが、水素発生量の不確かさを川内原発に比べて大幅に小さくするという操作を行ない、水素濃度を無理やり基準内に抑えたことも指摘されている。

MOX燃料は審査せず

 高浜原発3、4号機はMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を用いたプルサーマル運転を予定している数少ない原発だ。MOX燃料は、溶融温度がウラン燃料よりも約80度低く溶融しやすい、制御棒の効きが悪く暴走しやすいなど、ウラン燃料よりもさらに危険性が高いと言われている。

 しかも、炉心溶融する過酷事故が起こった場合、猛毒のプルトニウムが飛散して、深刻な内部被曝を引き起こす。

 にもかかわらず、MOX燃料を用いた場合の解析がなく、ウラン燃料を用いる通常の運転と同じ扱いとなっている。

非現実的な避難計画

 原発から半径30`圏内にある自治体は避難計画を策定することになっている。その最大の問題は実効性がないことだ。例えば、高浜原発に隣接する京都府舞鶴市(人口約9万人)は市内12業者と災害時輸送協定を結んでいるが、乗車定員の合計(バス71台、タクシー121台、ワゴン車2台)は3500人にすぎない。つまり、避難先に住民を運んだ運転手が再び放射能が飛散している汚染地へ戻り、何度もピストン運転しなければ運べない計算になる。だが、ピストン運転に応じる運転手がいなければ、残された住民はどうなるのか。

 高浜原発を含む若狭湾原発群から半径30キロ圏内に住む住民は約52万人。そのうちのUPZ(緊急時防護措置準備区域。半径5〜30`圏内)の住民は空間線量率が毎時0・5_シーベルトを超えた場合、数時間以内に避難することになっている。この数値はそこに2時間いれば、公衆被曝限度(年間1_シーベルト)に達するほどの線量だ。福井県四市町5万5千人の90%が30`圏外に避難するまでに最長11時間10分かかるという(12/18東京新聞)。少なく見積もっても数_シーベルト被曝することになる。


琵琶湖汚染の影響は甚大

 高浜原発から半径60`以内に琵琶湖の西半分が入る。風向きによっては琵琶湖が汚染されることは大いにありうる。琵琶湖の水を飲んでいる人は滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県にまたがり、約70自治体1450万人にのぼる。滋賀県のシミュレーションによれば、放射能汚染によって7〜15日飲めなくなる可能性がある。果たして、1450万人分の飲料水を1週間以上にわたって水道以外の方法で供給することはできるのか、という問題がある。

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 先述した福井地裁判決は「国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると、…運転差し止めは具体的危険性を軽減する適切で有効な手段である」と結論づけた。

 「命よりカネ」優先で再稼働ありきの関電と安倍政権に対し、全国から再稼働反対の声をあげ、立地自治体はもちろん、事故の際に被害を受ける周辺自治体への要請行動で再稼働策動を封じ込めていかねばならない。

(注)爆轟(ばくごう)
 衝撃波が音速を超える水素爆発現象。福島第1原発3号機で起きた爆発は爆轟だったとする解析がある。
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