2015年05月29日発行 1380号

【何が「平和安全法制」だ/安倍政権のごまかしネーミング/戦争法案を「平和」と呼ぶ】

 戦争をするための法案の名称に「平和」を用いた安倍政権。安倍晋三首相は「戦争法案といった無責任なレッテル貼りは全くの誤りだ」と強弁する。だが、詐欺に等しい「レッテル貼り」は政府の方ではないか。健康食品だと偽って毒薬を売りつけたら犯罪だ。連中はこれと同じことやっているのである。

嘘だらけの記者会見

 5月15日、安倍政権は自衛隊の海外派兵を飛躍的に拡大する関連法案を国会に提出した。法案の略称は新法「国際平和支援法案」と既存10法の改正案を束ねた「平和安全法制整備法案」。政府・自民党は11法案の総称を「平和安全法制」と呼ぶとしている。法案を審議する特別委員会の名称も「平和安全法制特別委員会」としたい考えだ。

 安倍首相は5月14日の記者会見で「日本と世界の平和と安全を確かなものとするための平和安全法制を閣議決定した」と語った。そして、「米国の戦争に巻き込まれると不安をお持ちの方に申し上げる。絶対にありえない」「戦争法案といった無責任なレッテル貼りは誤りだ」と力説した。

 具体的には、自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加することは今後とも決してなく、「イスラム国」(IS)掃討作戦への後方支援(兵站<たん>業務)に加わることもないと明言した。

 いかがであろう。安倍首相が「平和を守るため」「戦争法案ではない」と強調すればするほど、「戦争をするのでは」との不安が増した人は多いのではないか。その感覚は正しい。安倍は見え透いたウソを言っている。

 そもそも法案略称のネーミングがあざとすぎる。いずれも「平和」の名を掲げているが、その実態は日本国憲法の平和主義原則を踏みにじる戦争立法ではないか。

 たとえば、「国際平和支援法案」と名付けられた法案である。この法案の眼目は戦争中の他国軍の「後方支援」をするために自衛隊を素早く派兵することにある。期限付きで目的を達成すれば廃止される特別措置法ではないので、海外派兵恒久法と呼ばれる。

 「後方支援」というが、弾薬の提供や発進準備中の戦闘機への給油も可能になるわけだから、実際には戦闘行為への参加を意味する。自衛隊の派兵範囲は地球規模に広がり、これまでの特措法ではできなかった「戦闘が予想される地域」での活動も可能になる。

 自衛隊を世界中の戦場に送り込み、戦争に参加させるための法律名がどうして「平和支援法」なのか。黒を白、糞を味噌と言い張るたぐいの詭弁というほかない。

積極的派兵主義

 安倍政権による本質隠しのネーミングは今に始まった話ではない。典型例が安倍外交のスローガンであり、新憲法制定のあかつきには前文に書き込みたいとしている「積極的平和主義」である。

 本来「積極的平和」とは、単に戦争のない状態(消極的平和)とは違う概念、すなわち貧困・抑圧・差別などの構造的暴力がない状態を指す平和学の言葉だが、安倍首相はまったく違う意味で使っている。憲法9条の制約を突破し、集団的自衛権を行使することを「積極的平和主義」と称しているのである。

 つまり、安倍流「積極的平和主義」には、グローバル資本主義にとっての秩序維持のために自衛隊を使う、すなわち国際紛争に積極的に投入していくという意味が込められている。したがって本質は「積極的派兵主義」だ。それ以外の何ものでもない。

 このほかにも、武器輸出を解禁した新方針(昨年4月閣議決定)を「防衛装備移転3原則」と呼ぶなど、安倍政権のごまかし名称は度を超えている。逆に言えば、悪法の内容がひどすぎて、正確に伝われば決して世論の合意はとれないということだ。インチキ呼称は安倍政権の弱さのあらわれなのである。

「戦争」表現を排除

 4月1日の参院予算員会で、社民党の福島瑞穂議員が「戦争法案」と呼んで質問したところ、自民党側が「不適切な言辞」として発言修正を求める一幕があった。今後も同様の手口で、法案の本質をあらわす「戦争」表現を排除するよう圧力を加えてくることが予想される。

 特に、マスメディアに対して「戦争法案と呼ぶな」「どうして政府が決めた略称を使わないのか」と、自民党得意の「要請文」攻撃を仕掛けてくるだろう。市民が「おかしい」と声を上げねば、メディアは簡単に屈服する。だから戦争法案は戦争法案だと言い続けねばならないのだ。

   *  *  *

 田中慎弥の小説『宰相A』に登場する日本国首相は、国民向けの演説で「アメリカとともに世界の平和と安寧を目指して、積極的かつ民主的に地球規模の戦闘を継続しなければなりません」と主張する。「我が国の目指すべき道は戦争主義的世界的平和主義」というこの男、モデルは明らかに安倍晋三だ。

 だが、現実の宰相Aは小説の上を行き、戦争という言葉さえ消し去ろうとしている。安倍政権の暴走を食い止めないと、日本は再び戦争の過ちを犯すことになる。 (M)


世論はだまされていない

・集団的自衛権を使えるようにする法案について   賛成33% 反対43%

・「後方支援」を世界中でできるように変える法案について   賛成29% 反対53%

・そのつど法律をつくらなくても自衛隊を海外派遣できるようにする法案について     賛成30% 反対54%

・安倍政権が提出した安保関連法制を今国会で成立させる必要があるか  必要がある23% 必要はない60%

・日本がアメリカの戦争に巻き込まれることは「絶対にありえない」とする安倍首相の説明に納得できるか
 納得できる19% 納得できない68% 朝日新聞世論調査(5/16~5/17実施)より

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