2015年06月19日発行 1383号
【イラク派兵で自殺者多発/若者の命を奪う戦争法案/それでも安倍は「血を流せ!」】
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戦争法案をめぐる国会審議で衝撃の事実が明らかになった。イラクやインド洋に派兵された自衛隊員のうち、56人が自殺していたことを政府が認めたのである。戦争は人間の肉体も精神も破壊する。戦争法案が成立すれば、事態はさらに悪化する。安倍政権は「国益」追求のために若者の命を使い捨てにしようとしているのだ。
56人が在職中に自殺
防衛省は5月27日、イラク特措法やテロ特措法にもとづき派兵され、在職中に自殺した自衛隊員が54人いる(14年末時点)ことを国会答弁で明らかにした。
内訳をみると、03年〜09年にイラクに派兵され、帰国後に自殺した自衛隊員は29人(陸上自衛隊21人、航空自衛隊8人)。01年〜07年のインド洋派兵(米艦などへの給油活動)では海上自衛隊員25人が自殺している。インド洋派兵はテロ特措法失効後も補給支援特措法にもとづき継続したので(08年〜10年)、それを含めると自殺者は計27人になる(6/5政府答弁書)。
人口10万人あたりの自殺者数を自殺率という(自殺者数÷人口×10万人)。日本全体の自殺率は過去10年間の平均で約24。これをイラク派兵の自衛隊員と比べてみよう。延べ派兵人数9560人。自殺者が計29人だから、自殺率は303.3(陸自に限れば375)。世間一般の約13倍という異常な数値だ。
もともと防衛省・自衛隊は自殺者が多い。隊内のいじめやパワハラが原因とみられる自殺が問題になるほどで、自殺率は30〜40に上る。しかし、海外派兵隊員の自殺率はそれをはるかに上回る。それこそ組織の「存立危機事態」というべき状況なのだ。
しかも公表されたのは在職中の自殺であり、除隊後の事例は含まれていない。精神を病んだ者は自殺に至る前に退職するケースが多いだろうから、事態はもっと深刻なことが容易に想像できる。

戦地派兵のストレス
海外派兵の自衛隊員はどのような状況に置かれていたのだろうか。イラクから帰国した1か月後に自殺した20代隊員の母親は、NHKの取材に対してこう語っている。
「任務は宿営地の警備だったそうです。『ジープの上で銃を構え、どこから何が飛んでくるか分からない。おっかなかった。怖かった、神経を使った』って。夜は交代で警備をしていたようだが、『交代しても寝れない状態だった』と言っていました」。
帰国後も彼の精神状態は安定せず、カウンセリングを受けた数日後に、自ら命を絶ったという。
札幌市内の山林で自殺した陸上自衛隊の三佐は「米兵と一緒にいたら殺されてしまう」との言葉を死の前に残している。彼は04年5月から約4か月間、警備中隊長としてイラクで活動。その際、自ら指揮する警備中隊の隊員がゲリラと間違われ、米兵に誤射される事件が起きていた(6/13週刊現代)。
このように、現実の派兵先は日本政府の言う「非戦闘地域」とは程遠いものだった。戦地のストレスは人間の精神をむしばむ。交戦の事態に至らなくてもこうなのだ。戦争法案が成立し、自衛隊が兵站活動という形で実戦に投入されればどうなるか。殺し殺される可能性は飛躍的に高まる。当然、戦争の毒に侵される隊員も増えるだろう。
ちなみに、米国では毎日22人前後の帰還兵が自ら命を絶っているという(反戦イラク帰還兵の会調べ)。アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、戦闘中の死者数(6460人)を上回る。これが戦争国家の現実なのだ。
命を軽んじる安倍首相
自衛隊員の自殺多発について、安倍晋三首相は「胸の痛い話だ」と語る。だが、本当は「やむをえないコスト」ぐらいにしか思っていない。そうでなければ、いわゆるリスク論争にいら立ち、「木を見て森を見ない議論だ」などと言い放ったりしない。
戦争法案の閣議決定を受けた記者会見(5/14)で、自衛隊員のリスクが高まるのではと質問された安倍はこう反論した。「今までも自衛隊は危険な任務を担ってきた。発足以来、約1800人が殉職されている」。事故死と戦死とでは大きな違いがあるが、要するに「これまでも死人は出ている。少し増えたぐらいで何の問題があるのか」と言いたかったのだろう。
そんな安倍には「軍事同盟は血の同盟」という持論がある。具体的には、集団的自衛権を行使できないようでは、日本は米国の「完全なイコールパートナー」になれないというのだ(対談集『この国を守る決意』)。
対等な日米関係、すなわち日本が米国と肩を並べる超大国になるためには、日本の若者が戦争で血を流すことが必要だと言わんばかりの主張である。また、安倍は中東の石油確保など、集団的自衛権行使の背景に帝国主義的野望があることを隠そうとしない。
支配層の利益を確保するための人殺し−−戦争とはそういうものだ。安倍政権は人間性を破壊する殺し合いの現場に若者たちを送り込もうとしているのである。 (M)
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