2015年09月04日発行 1393号

【「福島被ばく訴訟」始まる 原告の井戸川克隆さん(前双葉町長)陳述】

 福島原発事故当時の地元の首長が国と東京電力を訴えた「福島被ばく訴訟」が8月21日、東京地裁で始まった。傍聴抽選に100人を超える市民が列をなし、法廷はいっぱいになった。

「憤りが収まらない」

 原告の前双葉町長・井戸川克隆さんが意見陳述。「私は今回の事故により、計り知れない被害を受け、数えきれないほど多くのものを失った。事故直後に大量の被曝をし、今日まで健康被害の恐怖やがんの不安におびえ続けている」。悔しさをにじませながら、語り始める。

 「事故前、国や東電は核の『平和利用』をうたい、『原発は絶対安全』を繰り返し、何があっても『止める、閉じ込める、冷やす』と言い続けていた」「事故の翌朝以降、町民は川俣町への避難を開始。私は、取り残されていた病院患者や施設入所者の避難誘導にあたっていたとき、1号機からドン≠ニいう大きな音が響き、5分後、空からぼたん雪のような放射性降下物が落ちてきた。3月11日16時45分に東電が政府に通報した時点で適切な避難指示が出ていれば惨事を回避できたと思うと、憤りが収まらない」と原子力政策のウソと事故対応の遅れの責任を追及。「テレビ会見は『直ちに影響がない』と、事態の深刻さを伝えない。『なんだこの国は。われわれを見捨てる気か』と強い不信感を持った」

 「放射能は心の問題と発言した副大臣がいた。避難も強いられず、被曝の恐怖にもさらされていない者がそう決めつけることに怒りを覚える。被害ではないと決めつける方には、私たちと同じ放射能を被(かぶ)ってみていただきたい」「今や、放射線に汚染された土地に無理に帰還させようとして、20mSvで安全だという。安全の根拠を示さず、避難住民の自己決定権を尊重しない。史上最大の事故には史上最大の救済が必要だ。国に期待できない以上、司法によって正義の実現を」。陳述を終えると、裁判長の制止の声を圧する大きな拍手が響き渡った。

裁判を支える会結成へ

 弁護団は宇都宮健児弁護士を団長に、福島原発被害東京訴訟やさいたま訴訟などを担う弁護士12人で構成されている。裁判後の報告集会で、松浦麻里沙弁護士は「避難指示の遅れ、政府の過失で無用な被曝を受けたこと、初期被曝がもたらす健康被害への恐怖・精神的苦痛を正面から取り上げ、責任を問う裁判だ」と意義づけた。

 集会には、南相馬・20mSv基準撤回訴訟や東京訴訟、かながわ訴訟、東電株主代表訴訟の原告らも参加。「当該の行政の長が訴える裁判は画期的」「低線量被曝の健康被害を問題にしていく意義ある裁判だ」「ひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)に入って大きな運動にしよう」など、活発な意見が出された。井戸川さんは「こんなに集まっていただいてありがとう」と涙を拭い、「この裁判で、区域外区域内など関係なくみなさんが被害者だという意識を高めたい。健康手帳の交付、健康診断など被曝の影響をあいまいにしない制度要求につなげたい」と述べた。

 次回以降の期日は11月19日、2月4日、4月20日(いずれも午前10時から103号法廷)。また、裁判を支える会の結成に向け、9月6日に打ち合わせ会がもたれる(午後4時から埼玉総合法律事務所=浦和駅下車=)。

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