2015年10月02日発行 1397号

【どくしょ室/日清・日露戦争をどう見るか/近代日本と朝鮮半島・中国/原 朗 NHK出版新書 本体780円+税/「安倍談話」のウソを暴く】

 戦後70年の安倍談話は、戦争法案反対行動に押され多少「自重」せざるを得なかったようだが、誤った歴史認識を悪びれることなく開陳している点で最悪だ。

 冒頭に登場する日露戦争。安倍は「植民地支配のもとにあった、多くのアジア、アフリカの人々を勇気づけました」と言った。これはアジア太平洋戦争を「欧米支配からのアジア解放」戦争と見る歴史修正へと続く。即座に反論するために本書を読んでほしい。

 1904年(明治37年)2月に始まる日露戦争はロシアに勝利したわけでなく、敗戦を避けるために「痛み分け」に持ち込んだものだ。この戦争で明治政府がまっ先にやったことは「(韓国の)独立および領土の保全を確実に保証する」と称して、軍事・外交・財政・交通・通信などを監督下に置くことだった。朝鮮人民のみならず欧米の植民地とされたアジア、アフリカの人びとにとって日本は新たな侵略者であり、警戒されることこそあれ、勇気づけるなどありえない。

 司馬遼太郎の小説『坂の上の雲』の「明るい明治」のイメージを利用し、安倍晋三首相や橋下徹・大阪市長など好戦勢力が好んで口にする明治維新は、日本が侵略戦争に明け暮れる出発点だった。近代日本が後発帝国主義国として植民地争いに突き進む姿を本書で概観できる。

 2つの国内戦争(戊辰戦争、西南戦争)を経て成立した明治政府は朝鮮に不平等条約を押し付け侵略を開始。1894年(明治27年)清への宣戦布告直前に朝鮮王宮を占領。下関講和条約では、まず清に朝鮮を「独立自主国」と認めさせた。朝鮮王朝は日本の傀儡(かいらい)政権となった。台湾を割譲させ、多額の賠償金を手にし軍備増強を果たす。この日清戦争を通じて、明治中央政府と天皇の権威を確立し、中国蔑視の差別感情を醸成してきたことも忘れてはならない。

 日清・日露戦争をどう見るか。目的は「最初から最後まで朝鮮半島の支配権を争う」ためで、「戦場も当初はほとんどが朝鮮半島」だったことから「第1次、第2次朝鮮戦争」と呼ぶほうが戦争の本質が明確になると本書は指摘する。これに続く2度の世界大戦も日本にとっては朝鮮支配を足掛かりにした中国侵略への道であった。

 第1次世界大戦で日英同盟を「根拠」に対独参戦し中国大陸への侵略に踏み出す様は、まさしく「集団的自衛権」の役割を雄弁に物語る。また日中全面戦争に至る発端は「在留邦人保護」を名目とした山東省への出兵だった。「自国民を守るため」に他国領土に軍隊を送る危険性がよくわかる。

 朝鮮、中国との関係を考えれば、戦後70年ではなく、日清戦争から120年間を反省すべきだ。ウソとごまかしで戦争路線を突き進む安倍政権打倒のためにも近代日本の歴史的事実を学ぶ意義はますます高まっている。       (T)
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