2015年12月25日発行 1409号

【ウソつき安倍の「新・三本の矢」を斬る/(1)GDP600兆円目標で潤うのは誰か/法人税減税と大軍拡のカラクリ】

 戦争法案の強行採決で支持率を下げた安倍政権は、経済分野の宣伝で世論の批判をかわし参院選勝利から憲法改正への道をもくろんでいる。そのために、「アベノミクス幻想」を利用し、GDP(国内総生産)600兆円、希望出生率1・8、介護離職ゼロを「新・三本の矢」とする第二ステージを打ち出した。具体策である低年金者への3万円支給や最低賃金1000円などアメ≠フ部分も底の浅さが見透かされ、「苦渋の策」(11/27朝日)「首相、現実を見てますか」(12/10毎日)と総スカンだ。

 「新・三本の矢」の問題点を3回にわたって指摘する。今回はGDP600兆円問題。実現可能性なしと指摘されるものがなぜ打ち出されるのか。

失敗に終わった第一ステージ

 安倍政権は、アベノミクスと称して(1)大胆な金融政策(2)機動的な財政政策(3)民間投資を喚起する成長戦略を進めてきた。目指すところは、「デフレからの脱却」と「富の拡大」であった。

 過去最高となった企業の経常利益や株高などを成果として自賛するが、実は問題だらけだ。経常利益は内部留保に貯めこまれるだけで、株高も日銀や年金基金の買支えで維持されているにすぎない。

 「大胆な金融緩和策で消費者物価を2%上げればデフレを脱却できる」と安倍は豪語していた。だが、3年経った現在でも2%増は達成されていない。日銀は、16年度後半ごろに達成との見通しを17年度初めごろへと先送りをした。政府も日銀も金融政策の誤りを認めようとしない。

 機動的な財政政策とは、公共事業による景気刺激策である。たしかに東日本大震災の復興などの財政出動は不可欠だが、大手ゼネコンが潤っただけで中小には回らず、しかも復興財源である復興特別法人税を一年前倒しで廃止する矛盾した政策をとった。国債への依存はそのままであるため国の借金を増やしており、財政政策は機能していない。

 金融政策も財政政策も失敗に終わっていることから、経済成長が順調に回復する状態にはない。そうであるが故に、幻想を与え続けるために「成長戦略の衣替え」が狙われた。参院選に向けてとにかく国民受けのいい政策を並べてイメージアップを狙う。第二ステージというネーミングにはそんな魂胆が透けて見える。

賃上げせずに規制緩和

 「新・三本の矢」においては、経済成長を進めることによって出生率と介護離職の問題も解決できるという。したがって、GDP600兆円が最重要課題とされる。

 GDP600兆円について緊急対策で唱えられたのは、法人税引き下げ、最低賃金1000円、地域の稼ぐ力を引き出すことなど。最低賃金と賃金引き上げというアメ≠ェ含まれたのは、政府文書でさえ「設備投資や賃金は十分には回復していない」というほど深刻な現実があるからだ。

 非正規労働者の割合は初めて40%を超え、年収200万円以下の人が約1070万人(賃金構造基本統計調査)、貯蓄ゼロ世帯が30%超と貧困層が急速に拡大している。これではGDPの6割を占める個人消費は伸びない。だから安倍も賃金や最低賃金の引き上げを言わざるをえず、財界に賃上げを求めた。低年金者への3万円支給案も消費拡大の名で貧困高齢者の票を狙った愚策でしかない。個人消費を持続させるためには雇用と収入の安定が大前提であるにもかかわらず、現実は非正規雇用拡大や年金・社会保障改悪一辺倒だ。本来、貧困を克服する根本的解決策こそ行われなければならない。

 一方、大企業には何でもありだ。官民対話の場で甘利担当相が「過去最高の原資があるのに、投資しないのは重大な経営判断の誤りだ」と発言したことを逆手にとり、榊原経団連会長は「投資拡大のためには法人税の早期引き下げや前倒し、規制緩和の環境整備が必要だ」と注文をつけた。これで法人税引き下げが決定された。だが、過去最高の利益の多くは設備投資にも賃上げにも回らず、内部留保(2014年度354兆円)は史上最高にまで積み上がっている。それがいっそう拡大するだけだ。

 法人税引き下げの財源は消費税増税だ。それはむしろ個人消費を減少させる。

 緊急対策は矛盾に満ちたものでしかない。

内部留保を吐き出せ

 2020年までにGDP600兆円を達成するには年3%の成長率が必要となる。低成長が続く現状で、誰が見ても実現不可能だ。だが、GDP600兆円は第二ステージの要であり、安倍政権はあらゆる手を使おうとする。来年度から研究開発費と防衛装備品(戦車や艦艇等)がGDPに計上され、約15兆円が水増しされる。手っ取り早いGDP拡大策としての大軍拡策動を許してはならない。

 平気でウソをつく安倍は、「新・三本の矢」が実現しようがしまいが、参院選までの看板となればいいとしか考えていない。アメをちらつかせつつ大企業の利益だけを保証する策動を止めなければならない。

 求められるのは安定した生活が送れるようにすることだ。それが個人消費―国内需要を増やす。利益を独り占めしている大企業に応分の負担を求め、内部留保を賃上げと雇用、設備投資に回すなど、利益が国民生活に行きわたるようにしなければならない。安倍退陣こそ、その第一歩である。

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