2016年01月01・08日発行 1410号

【中東をめぐる権益争いがむき出しに/「対テロ戦争」で戦闘機売り込む】

 中東をめぐる情勢は大きく変化しようとしている。イラク占領に失敗した米国の影響力低下、イランへの経済制裁解除などにより、対立の構図が組み替えられつつある。中東支配の主導権争い、権益争奪戦はむき出しになってきた。

主導権争い

 トルコが11月24日、ロシアの爆撃機を撃墜した。ロシアがシリア北部への空爆を開始した9月から10月初め頃、トルコは「領空侵犯」を容認していた。ロシアは「イスラム国」(IS)とあわせて、トルコが支援するシリアの反政府武装勢力も攻撃した。ロシアはシリアに軍事基地を持つだけでなく、シリア内の油田開発の利権も得ている。アサド政権擁護のために軍事支援をしたのだ。

 アサド退陣を求める米などの有志連合は空爆の主導権をこのままロシアに渡すわけにはいかない。トルコは、IS支配地からの石油密輸ルートになっている。ロンドンのアラビア紙「アル・アラビ」(12/1)によれば、ISの石油はクルド自治区産の石油とともにトルコの3つの港からイスラエルに向けて積み出されている。

 イスラエルはISに軍事支援も行っている。9月末にイラクで拘束されたIS戦闘員の中に、イスラエル軍の現役大佐がいた。シリアのゴラン高原に展開する特殊部隊に属している。ゴラン高原では昨年、油田が発見された。イスラエルが占領地の油田を開発するためにはアサド政権の排除が必要だ。テロ国家の最右翼イスラエルにとって戦闘拡大は好都合なのだ。

 親米の立場をとってきたサウジアラビアが12月15日、米有志連合とは別に「イスラム軍事連合」結成を発表した。米ロ協議によるアサド政権の延命やイランの巻き返しをけん制し、アラブ筆頭国としての主導権を握るためである。内戦状態にあるイエメンへの爆撃を続けるサウジアラビアもまた、IS支援国であり、独裁戦争国家だ。

戦争が商機

 敵味方関係なく戦争で儲ける軍産複合体にとって、対テロ戦争拡大は絶好の商機となっている。

 テロ事件の「被害者」フランスは、武器輸出で利益を増大させていた。最新鋭戦闘機「ラファール」を中東諸国に大量に売っている。エジプトに24機、カタール24機、インド36機、近くアラブ首長国連邦と60機の商談がまとまる。シリア空爆での威力が評価されたという。軍需産業の受注額は昨年の2倍になる見通しだ(6/21読売)。

 フランスを上回る武器輸出国ドイツもまた中東相手に売り上げを伸ばしている。2013年にはカタールに戦車62両を売りつけた。ロシアは初めて潜水艦から巡航ミサイルで攻撃を行い、その精度をアピールした。イタリアは、ISの拠点になっているリビアへの軍事支援を表明した。

 ストックホルム国際研究所の調査によれば、2013年世界の軍需企業トップ100社の総売り上げは前年比2%増の49兆2600億円。国別では米43社、ロシア14社、フランス10社、英国9社、イタリア6社と続く。

 米有志連合はすでに9千回の空爆を行い、ロシアも4千回に上る。空爆で消費された戦費は2兆円にもなる。イラクのクルド人部隊が押収したISの武器は、大半が米国、ロシア、中国製であり、最も多かったのは米国製M16ライフルだった(AFP)。

空爆をやめろ

 パリのテロ事件直後にトルコで開催されたG20は「テロと戦う」と声明を出した(11/16)。だが「テロに立ち向かう」主要国首脳により、戦闘は長引き、拡大し、大量の武器・弾薬が消費され、そして生産されている。安倍政権は米有志連合に名を連ね、参戦機会をうかがう。武器輸出を解禁し、防衛省とともに安倍自らセールスに歩いている。

 対テロ戦争の犠牲者は、空爆で命を失う市民であり、絶望的な貧困によりISへ身を投じる若者たちだ。「テロの恐怖」を口実に治安強化で基本的人権が侵害される戦争国家の市民だ。すべて、99%の民衆である。

 1%の支配者によるカネ儲けのために、99%の民衆の命を奪うな。空爆をやめろ。

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