2016年01月01・08日発行 1410号

【高浜原発 人命置き去りの再稼働は許されない】

 福井県高浜町の野瀬町長は12月3日の町議会で、関西電力高浜原発3、4号機の再稼働について同意を表明した。だが、原発の安全性は保証されておらず、事故の際の住民避難計画も非現実的だ。住民の命を置き去りにした再稼働は許されない。

安全は保証されていない

 野瀬町長は「(面談した林経産相から政府の意思を改めて確認でき)安全性や防災対策を慎重に確認できた」として「再稼働に理解をする」と表明した。

 だが、安倍首相が「世界一厳しい」と吹聴し、高浜原発の安全性を保証しているはずの新規制基準は、福井地裁(樋口裁判長)が「緩やかにすぎる。安全を保証しないので無効」(4/14運転禁止仮処分決定)とした代物だ。

 高浜原発が運転を開始した当時の基準地震動(想定される最大の地震動)は370ガルだったが、その後2007年の柏崎・刈羽原発事故を受けて550ガルに、新規制基準の施行を受けて700ガルに引き上げられた。しかし抜本的な耐震補強工事を行ったわけではなく、もともと設定されていた「安全余裕」を食いつぶしているだけだ。

 また仮処分決定は、過去7年間に5回も基準地震動を超える揺れが観測されていることを重視し、「(基準地震動が)地震の平均像を基に策定することに合理性は見い出し難い」として「基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っている」と新規制基準を批判した。さらに新基準は事故時の指令室となる免震重要棟の設置時期を猶予するなど「緩やかすぎる」。

 その上、運用面でも原子力規制委員会の甘い対応が明らかになった。新規制基準では原発で使われている全ケーブルの難燃化を求めている。1基あたりのケーブルの全長は数百`に及び、すべてのケーブルを難燃性に交換するには膨大な費用と時間がかかるし、交換自体が困難な箇所もある。

 12月8日関電は、交換が難しい場所はケーブルが入っている容器ごと防火シートで覆う対策を提示し、規制委はこれを了承した。規制委自らが基準を破っているのだ。

プルサーマルは審査せず

 関電の八木社長は一年前の記者会見で、高浜原発を再稼働する際、「地元の理解を前提にプルサーマル発電をやりたい」と語った。プルサーマル運転とはプルトニウムの混合酸化物燃料(MOX燃料)を燃焼させるものだ。

 だが関電の審査書案にはMOX燃料を用いた場合の解析がなく、ウラン燃料を用いる通常の運転と同じ扱いとなっており、プルサーマル運転の危険性について考慮されていない。規制委もその点について問題にした形跡はない。

非現実的な住民避難計画

 新規制基準は、最悪の事態が起きた場合の住民の安全確保(避難計画の策定)を再稼働の条件にしていない。避難計画策定の責任は原発から30`圏(UPZ=緊急時防護措置準備区域)内の自治体に丸投げされている。

 高浜原発の30`圏内には約18万人の住民が住んでいる。計画によれば、住民は自家用車か自治体が用意するバスで逃げることになっている。避難先は福井県の場合は約50`東の敦賀市か兵庫県豊岡市など、京都府の場合は兵庫県内の各市町だ。

 しかし、この計画はまったく非現実的だ。例えば舞鶴市の場合、市内12業者と災害時輸送協定を結んでいる。使われるバス71台、タクシー121台、ワゴン車2台の合計乗車定員は約3500人にすぎない。対象人口は約8万9千人なので、仮に半分が自家用車を利用するとしても13回の往復運転が必要だ。放射能が飛散する中で運転手を確保できる保証はない。また、京都府の30`圏内には、災害時要配慮者が医療施設関係、福祉施設関係、在宅関係合わせて約5千人いる。この人たちの輸送はもっと困難だ。

周辺住民の過半数が反対

 原発事故の際の避難計画策定を義務付けられている30`圏内の自治体が「地元」に含まれず、「立地県」である福井県と「立地自治体」の高浜町の同意だけで再稼働できるとする現行の仕組みが不合理なのは明らかだ。

 NHKが10月に行なった高浜原発の再稼働についての世論調査によると、高浜町を除く原発から30`圏の周辺地域では、「反対」「どちらかといえば反対」が55%と過半数を占めた(10/16NHK)。

 福井県の西川知事は「すべて条件を満たした」と再稼働同意(12・22)。知事が同意しても、運転禁止仮処分決定が覆らない限り再稼働はできないが、その仮処分についての異議審決定が12月24日に出される。予断は許されない。

 再稼働ありきの安倍政権批判を広げるとともに、福井県には再稼働同意への抗議を、周辺自治体へは再稼働反対を表明するよう要請行動を強めなければならない。
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