2016年01月01・08日発行 1410号

【安倍の「先送り」作戦/ヤバいことはみんな参院選後/勝てば一転、憲法「改正」へ】

 安倍政権にとって2016年最大の目標は夏の参院選に勝利すること。参議院でも政権与党で3分の2以上の議席を獲得し、悲願の憲法「改正」に踏み出したいというわけだ。選挙に勝つためなら世論を欺くことも厭(いと)わない。安倍官邸がくり出してきたのは、戦争政策の一部を参院選後に先送りするという、何とも姑息な作戦であった。

 政界を引退したはずの橋下徹のツイートが波紋を広げている。「安倍政権・官邸、恐るべしの政治。これが政治か。軽減税率でここまで妥協するとは。これで完全に憲法改正のプロセスは詰んだ。来夏の参議院選挙で参院3分の2を達成すれば、いよいよ憲法改正。目的達成のための妥協。凄すぎる」(12/15)

 解説すると、安倍政権は軽減税率の件で公明党の意向を大幅に取り入れる見返りとして、同党から憲法「改正」への協力を取り付けた−−というのである。

 この見立てが正しいかどうかは別として、改憲勢力がきたる参院選を「絶対に負けられない戦い」と位置づけていることは間違いない。橋下自身、おおさか維新の会の会合(12/12)で「憲法改正最大のチャンス。自民、公明、おおさか維新で3分の2を越えることを目指して頑張ってほしい」と檄を飛ばしている。

 当の安倍政権はどうかというと、まずは通常国会を「安全運転」で乗り切ることを心がけているようだ。秘密保護法や戦争法のように「安倍カラー」を鮮明に打ち出すと、世論の反発を招き支持率を落とす。だから、やりたいことは参院選の後まで我慢するという魂胆だ。

駆け付け警護は秋以降

 先送りの第1号は「駆け付け警護」である。駆け付け警護は、PKO(国連平和維持活動)で派遣された自衛隊員が、他国軍やNGO(非政府組織)職員などが襲われた場合、武器を使って救援する任務。戦争法の成立で可能になった。武装勢力と交戦するわけだから、双方から死傷者が出る可能性がきわめて高い。

 自衛隊は現在、南スーダンのPKOに派兵されている。政府は当初、来年5月の部隊交代に合わせて武器使用基準を緩和し駆け付け警護を可能にする方針だったが、秋以降に先送りした。自衛隊員が戦死する、あるいは他国民を殺傷する事態が現実のものになれば、戦争法を強行した安倍政権の責任が問われ、「選挙結果にも影響が出かねない」(官邸筋)からだ。

隠しておきたい共謀罪

 続いては、共謀罪の導入である。複数の人が違法行為について謀議・合意しただけで、実行しなくても罪に問うのが共謀罪だ。「内心の自由」にまで踏み込む弾圧法規であり、これまで国会に3度上程されたが、世論の反対で廃案となっていた。

 パリのテロ事件を受け、再び導入論が浮上。自民党の谷垣禎一幹事長や高村正彦副総裁らが法整備の必要性を訴えている。また、産経新聞・FNNの世論調査(12/12〜12/13実施)によると、共謀罪導入が必要だという回答が76・7%にも達している。

 だが、官邸側は「政権運営の不安定要因になる」(首相周辺)として、通常国会への法案提出は見送る方針だ(11/23朝日)。審議を通して共謀罪の正体が明らかになれば政権批判の再燃は避けられないと、連中が認識していることがわかる。

 実際、共謀罪はとんでもないシロモノだ。共謀罪を取り締まるためには「犯罪行為について話し合う」という行為を把握しなければならない。盗聴や通信傍受の拡大が不可欠だ。つまり共謀罪の導入は、治安当局が自由な市民生活に介入し、監視社会をつくることにつながるのである。

 すでに通信傍受の対象拡大などを盛り込んだ刑事司法改革関連法案が衆院を通過し、参院で継続審議中だ。通常国会において共謀罪導入とセットで審議されれば、市民監視の意図がバレバレになってしまう。そのリスクを安倍は避けたのである。

改憲棚上げありえない

 最後に本丸の憲法「改正」について。戦争法の成立後、安倍政権は「経済重視路線」への転換をアピールしている。たとえば、安倍側近の萩生田光一・官房副長官はBSフジの番組(10/4)でこう言った。「何が何でも安倍内閣のうちにというのは国民に非常に失礼な話だ。(改憲の)議論は経済的な安定感がないとそういう気持ちになれない。まずは経済再生を1番目の柱として全力をあげていく」

 改憲議論にほとんど加わったことのない森英介元法相らを自民党憲法改正推進本部の2トップに据えたのも、参院選をにらみ党内の議論を一時封印する意味合いがあると言われている(12/7産経)。

 もっとも、安倍晋三首相は自ら会長を務める改憲議員連盟「創生日本」の会合(11/28)でこう述べている。「憲法改正をはじめ、占領時代につくられた様々な仕組みを変えていくことが(自民党の)立党の原点だ」「こうしたことを推進していくためにも、参院選での力強い支援をいただきたい」。これが安倍の本音だ。改憲路線を棚上げすることなどありえない。

 安倍応援団の極右団体「日本会議」の田久保忠衛会長は「参院選で勝ったら、次は本当の安倍晋三が出てくるのではないか」(11/11朝日)と期待を寄せる。それまではウソとごまかしでOKということか。主権者をとことんなめている。こんな連中にごまかされてなるものか。 (M)



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