2016年01月15日発行 1411号

【うそつき安倍の「新三本の矢」を斬る(3) 「介護離職ゼロ」も絵に描いた餅 施設増でも介護職は減】

 アベノミクス第二ステージの第三の矢「安心につながる社会保障」として「介護離職ゼロ」が打ち出された。第一、第二の矢と同様、絵に描いた餅であり、国民の安心につながるものではない。

経済の維持が主眼

 「介護離職ゼロ」とは、介護を理由にした離職を2020年代初頭までにゼロにしようというものである。数ある社会保障分野のなかでこれがなぜ取り上げられるのか。

 答えは11月6日の安倍首相スピーチにある。「働き盛りで、あらゆる職業で大黒柱となっているのが、『団塊ジュニア世代』です。彼らが介護のため大量に離職することになれば、日本経済は成り立ちません」と述べたのである。

 「介護離職を防ぐために施設整備を行うという方針の背景は、経済活動に介護を従属させるという考えだ」(週刊高齢者新聞10月7日号)と介護業界から批判があがっている。安倍政権の主眼は、あくまで日本経済の維持であり、そもそも介護問題の解決を図ろうとの意図はない。

 読売新聞の緊急調査結果(12/16)では、主要企業の9割が年に約10万人と予想される介護離職が経営上の課題になると回答。企業の危機感の高さが明らかになった。「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりをめざす安倍は主要企業の危機感を共有し、だからこそ「介護離職ゼロ」を打ち出したのである。

増設だけでは解決せず

 介護離職を少なくするために唱えられたのが特別養護老人ホーム(特養)の増設だ。20年までの増加分約38万人に約12万人分を前倒し・上乗せして約50万人分へと拡大するという。これらが緊急対策19項目のうち「特に緊急対応」とする一番目と二番目に掲げられた。地価の高い首都圏での新規建設のための国有地約90か所の安価な貸し出しなどさまざまな優遇措置が講じられる。

 特養入所待機者は13年度で約52万人であり、この数値目標は一見実現できるかのように見える。しかし、現実はどうか。空きがあっても入所制限やユニット閉鎖などをする特養がある。入所希望者の殺到にもかかわらず、こうしたことが起きるのは、介護労働者が不足しているからだ。

労働条件改善が先決

 14年度介護労働実態調査によれば、「介護労働者の不足」は59・3%であり、理由として「採用困難」が72・2%。都内の福祉職の有効求人倍率は5・57(14年度)であり、全職種平均の3・5倍だ。

 介護労働者はなぜ不足するのか。前述の調査では、採用困難の原因は「賃金が低い」が61・3%、「仕事がきつい」が49・3%となっている。不足を解消させるには労働条件の改善が先決なのだ。

 全職種の平均月収32万5600円に対し、介護労働者の平均月収は21万8400円である(12年賃金構造基本統計調査)。約11万円の差は大きい。4月の介護報酬改定で処遇改善加算が増額された。だが、この加算は利用条件に制約があって中途半端な制度であるため、全体の賃上げにつながってはいない。

 逆に、その介護報酬改定で基本報酬が4・48%の減額とされたため、事業所の休止・廃止が急増してしまった。とりわけ、地域での介護拠点として一人ひとりの要介護者、家族のニーズに対応している小規模事業所へのしわ寄せは深刻であり、地域の介護体制が弱められている。一方でつぶしながら、他方で増設を唱えるなど、安倍政権は全く矛盾した政策を採っている。

 被害は利用者にも及んでいる。8月から、所得160万円以上の人の利用者料2割負担(それまでは1割)、特養相部屋居住費として市町村民税課税者に1日840円負担などが施行された。利用者負担料2割負担の対象拡大、要介護1と2の生活支援サービス・福祉用具貸与などの見直しも検討されており、介護保険を利用しにくくする政策が続けられようとしている。

 安倍政権は、社会保障費削減の強行で社会保障制度を解体させる狙いを持つ。「介護離職ゼロ」は絵に描いた餅でしかなく、自己責任の押し付けは要介護者・家族の生活を破壊し続ける。アベノミクス、「新三本の矢」への批判を広げ安倍を退陣させよう。


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