2016年01月15日発行 1411号

【司法の責任放棄した福井地裁/高浜再稼働禁止を覆す/安倍政権・関電に追随】

 福井県高浜原発3、4号機について12月24日、福井地裁(林潤裁判長)が行った異議審決定は、関西電力の主張そのままに安全性を軽視、科学性も否定して再稼働に道を開く不当きわまりないものとなった。原発再稼働に向けて暴走する政府・原子力ムラの意向に全面的に屈し、司法の責任を放棄したものといえる。

関電のコピペで原発容認

 2015年4月に福井地裁(樋口英明裁判長)は、福島原発事故を受けて原子力規制委員会が定め、安倍政権が「世界最高水準」とする「新規制基準」を「緩やかすぎる」と批判。原発の運転を差し止める仮処分決定を行った。この決定を不服として、関電が福井地裁に異議を申し立てて行われていたのが今回の異議審である。

 12月24日の福井地裁決定は、関電側の主張をほぼそのままなぞり、15年4月の差し止め決定が否定した規制委の基準に「合理性」を認め、この基準に基づく関電の安全対策を認めた。世界最高水準どころか、田中俊一規制委委員長みずから「安全とは申し上げない」と認めた「規制基準」によって原子力ムラ・関電を免罪するものだ。

 異議審決定は、「新規制基準の策定に関与した専門家により『基準地震動の具体的な算出ルールは時間切れで作れず、どこまで厳しく規制するかは裁量次第になった』との指摘がされている」「あらかじめ判明している活断層と関連付けることが困難な地震でマグニチュード7を超えるものが起こる可能性を完全に否定することはできない」と地震の危険性を認めながら、「いずれも福島原発事故を踏まえて策定された新規制基準下での基準地震動を超過したものではない」と決めつけ、再稼働を容認した。

 福島原発事故を受けて導入された新「基準地震動」(700ガル)を超える揺れが過去10年間で5回起きた事実(4月の差し止め決定で指摘)も無視。深刻な災害を引き起こす恐れ自体が「万が一にもないといえるような厳格な内容」を求めた4月の差し止め決定から大幅な後退であり、そこに正当性は全くない。

「事故起きる」の居直り

 とりわけ許しがたいのは、今回の決定が「本件原発において燃料体等の損傷ないし溶融に至るような過酷事故が起こる可能性を全く否定するものではないのであり、万が一炉心溶融に至るような過酷事故が生じた場合に備え」るべきだとしている点だ。

 福島原発事故後の民主党政権、そして安倍政権がどのようにして福島原発事故後の事態に対処したか。

 食品中や廃棄物中の放射能許容値を引き上げ、汚染食品、汚染がれきをを日本中にばらまいた。子どもをはじめとする市民の被曝限度を1_シーベルトから100_シーベルトに引き上げ、被曝を強要した。汚染が解消していないのに避難地域の指定解除や「自主」避難者の切り捨てによって避難者の福島への帰還を強要している。

 事故はどうせ起きますが、その後は政府・原子力ムラが総力を挙げ、被害の隠蔽と過小評価、被害者切り捨てと棄民、被害を訴える声の抑圧に務めますので、どうぞご安心の上再稼働してください=\福井地裁はこのように考えているも同然であり、もはや司法による犯罪だ。

 原発運転差し止めの仮処分決定の継続を求める市民の主張に、福井地裁は耳を傾けることもなかった。関電の主張のコピペで年内決着を強行したのも、できるだけ早く原発再稼働に道筋をつけたい安倍政権、差し止め決定を無視して再稼働手続きを進める関電、再稼働への同意を表明する西川一誠福井県知事らと歩調を合わせた出来レースだ。

世論は原発廃炉

 福井地裁が追認した規制委の「安全基準」は避難計画の作成すら義務づけておらず、福島級の過酷事故が起きた場合、住民は直接高線量被曝の危険にさらされる。市民はそうした危険性を見抜いている。15年9月に行われた世論調査では、74%が原発事故が起きた場合、避難計画通りに避難できるとは思わないと回答、原発再稼働にも58%が反対と答えた。福島原発事故から5年が近づいても市民の反原発の意思は固く、ここに闘いの展望がある。

 全原発即時廃炉を求める市民の声に応え、放射能健診署名をはじめとするあらゆる闘いを結び、再稼働に反対しよう。「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活している国富」(2014年、大飯原発差し止め判決)を守り、全原発廃炉を実現する2016年にしよう。

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