2016年01月15日発行 1411号

【未来への責任(191)「慰安婦」問題合意をどう見る】

 2015年も押し詰まった12月28日、日韓両政府は「慰安婦」問題について協議し、そそくさと合意をした。合意内容は、(1)「慰安婦」問題について日本政府は責任を痛感、(2)安倍首相が日本の首相としておわびと反省の気持ちを表明、(3)日本政府が10億円を一括拠出し、両政府が協力して名誉と尊厳の回復、心の傷を癒す事業を実行、の3点である。

 この合意により、両政府は「慰安婦」問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認した。

 今回の「合意」をどう見るか。事実から言うと、従来の日本政府の見解・対応を超える内容を含んでいる。日本政府が「慰安婦」問題でようやく国家責任を認め、安倍が「首相としておわびと反省」の表明をしたこと、その上で日本政府が国家予算から10憶円を拠出すると確認したことである。

 これらを見るならば、「河野談話」否定の策謀を退け、「アジア女性基金」の二の舞にはさせなかったと言うことはできる。

 しかし、日本軍「慰安婦」被害者を支援してきた挺身隊問題対策協議会は、合意を批判した。日本政府が犯罪の主体であった事実、その不法性を明白にせず、賠償などの措置を被害国に放り投げた、と。また、民族問題研究所も「第二の韓日協定のような“野合”」と糾弾した。

 被害当事者も次のような抗議の声を上げた。「合意する前に被害者に会うべきではないか。年寄りだから無視したのか」(李容洙(イヨンス)さん)「法的に名誉を回復してほしいというのが私たちの願いだ。私たちは妥結していない」(金福童(キムボクトン)さん)「(韓国)外務省は被害者を売り払ったのではないか」(李玉善(イオクソン)さん)等。

 ここにハルモニたちの深い怒り、悔しさ、悲しみが表明されている。彼女たちは今回の合意を見てデジャヴュ(既視感)を覚えたのではないか。「1965年と同じだ…」

 あの時も、日韓両政府そして米国政府の思惑に沿って、「反共冷戦」政策が優先され、肝心の植民地支配被害者の意向・要求は無視され、彼らの頭越しに請求権協定が締結された。日本の首相官邸の調印式に、元「慰安婦」も元徴用工も立ち会うなどということはなかった。今回も岸田・尹(ユン)両外相の合意の場に、被害者たちが同席することも立ち会うこともなかった。日韓両政府で勝手に「合意」し、米国が「歴史的だ」などと「賞賛」する。まさに65年と同じ構図だ。

 被害者は、これで「最終的かつ不可逆的」解決に至ったなどと言われて黙ってはいられなかったのだ。「不可逆的」な解決を得ようとするならば、せめて生存する被害者の同意が不可欠であり、前提ではないか。

 ただ、今回の合意は、四半世紀に及ぶ被害者たちの闘いが日韓両政府を追い詰めた結果であることも確かだ。

 「慰安婦」被害者が生きているうちに必ず真の解決を実現せねばならないが、今回はその基礎にはなりうる。ますます日韓市民の連帯した運動が問われる1年になる。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク事務局長 矢野秀喜)

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