2016年01月15日発行 1411号

【どくしょ室/経済的徴兵制 布施祐仁著 集英社新書 本体760円+税/貧しい者の命を使い捨て】

 戦争法をめぐる国会答弁で安倍晋三首相は「徴兵制などあり得ない」と強弁し続けた。「戦死者が出るような事態になれば自衛隊の志願者が減り、徴兵制を導入せざるを得なくなるのでは」という当然の疑問に対し、まともに答えることはなかった。

 戦争をする国はどのようにして軍隊を維持しているのか。米国では貧困層の若者たちが経済的な理由からやむなく軍に志願するケースが多い。本書は、こうした「経済的徴兵制」が日本でも進行していることを明らかにしている。

 政府の新自由主義政策により若者の貧困化が進む中、今でも経済的理由で自衛隊に入隊する人は多い。本書で紹介されているAさんは、派遣先企業の倒産をきっかけに自衛隊入りした。ブラック企業を辞めたBさんは、大学にも通えるという募集を見て志願した。

 このような状況を前提に、自衛隊は隊員のリクルート策を練っている。昨年7月、川崎市内の高校3年生に「苦学生求む」というキャッチコピーのチラシが配られた。防衛医科大学校の募集案内で、そこには「医師・看護師になりたいけれど…お金はない!(中略)こんな人を捜しています。入学金・授業料は無料です」と記されていた。

 軍のリクルーターにとって最大のターゲットは高校生である。米国では連邦政府からの補助金支給と引き換えに、生徒の個人情報を軍に提供することを義務づける法律がある。自衛隊もまた高校生の勧誘に力を入れている。

 たとえば、07年度に発足したハイスクールリクルーター制度だ。これは入隊5年以内の若い自衛隊員が母校を訪問し、「先輩の話を聞く会」等を開催するというもの。戦闘服姿での体験談は勧誘に抜群の効果をあげているという。

 また、高校生に軍事教練を受けさせる制度がある米国ほどではないにせよ、自衛隊への体験入隊が「総合的な学習」や「キャリア教育」の一環と称して活発に行われている。真の狙いが自衛隊への勧誘にあることは言うまでもない。

 財界も「経済的徴兵」の制度化を露骨に語っている。2014年5月、経済同友会専務理事(当時)の前原金一は、自身が委員を務める文部科学省の有識者会議で、職に就けず奨学金を延滞している若者を「防衛省でインターンシップ(就業体験)させたらどうか」と提案した。

 著者はイラク派兵の内実を記した自衛隊の内部文書を暴露したジャーナリスト。経済的徴兵制の問題点をこうまとめている。「富める者たちの利益のために行われる海外での戦争で、貧しき者たちの命が『消費』される。それは不正義以外の何物でもない」

 富裕層・巨大企業の利益のために、貧しい者を使い捨てにするシステムを許してはならない。  (O)
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