2016年01月22日発行 1412号

【朝鮮 核実験/戦争国家づくりに利用するな/憎悪と暴力の連鎖を断ち切ろう】

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)は1月6日、「水爆実験成功」と発表した。原水爆禁止と平和を求める世界の民衆の願いを踏みにじるものだ。だが一方、朝鮮の核問題解決の枠組みである6か国協議再開の努力は放棄され、制裁強化一点に焦点があてられている。また、安倍政権は緊張関係を煽り、戦争国家づくりに利用している。好戦的政治家、独裁者による憎悪と暴力のサイクルを断ち切り、戦争させない世界を実現しよう。

平和的解決の枠組み

 朝鮮は、2013年以来4度目の核実験を強行した。金正恩(キム・ジョンウン)体制になってから2度目だ。今回の核実験が「水爆」かどうかは確認されていないが、繰り返し核の脅威と最悪の環境汚染を振りまくことは断じて許されない。

 朝鮮政府はなぜ核開発に固執するのか。「朝鮮戦争(注)を正式に終了させるために平和条約を得るまで核実験をやめない」とその意向が報じられている(1/8ロイター)。平和条約締結の交渉カードだというのだ。

 1950年に始まる朝鮮戦争は、53年休戦協定が結ばれたが、「最終的な平和解決」(平和条約)には至っていない。ソ連崩壊後、支援国は中国に限られ、朝鮮は孤立していく。昨年10月「北朝鮮の脅威に対抗するための日米韓合同軍事演習が必要」と米海軍作戦部長が公言するように、核武装する米軍と日韓両軍の軍事演習が強化され、軍事圧力は今も強まっている。「水爆実験は米国をはじめとした敵対勢力の核の脅威と恐喝から、国家の自主権と民族の生存権を守るため」と朝鮮に核開発の口実を与えている。

 とはいえ、朝鮮の核開発は正当化できない。朝鮮は「先軍政治」を憲法に掲げる軍事独裁国家だ。市民生活の向上より軍事優先≠公言する。飢餓状態といわれる市民の窮状を放置して、主権も生存権もありえない。こうした独裁国家に、経済制裁による脅迫で核を放棄させることなどできないのは目に見えている。ますます朝鮮の市民が困窮を深めるだけだ。

 ではどう核開発を放棄させるか。03年に始まる6か国協議は、米朝2国間協議(94年合意)や中国を加えた3か国協議を踏まえて到達した平和的解決への道筋だった。日本、韓国、ロシアを加えた6か国は、05年に核開発放棄、米朝国交正常化などで合意、初めて共同声明が出された。

 だが、直後に米財務省の主導による朝鮮関連の銀行口座凍結など実質的な金融制裁が行われ、朝鮮は核実験に踏み切るなど、両者とも誠実に履行するには至っていない。以後、制裁と核実験の対抗関係が続き、08年以降協議は開催されていない。今すべきことは、6か国協議の枠組みを再構築し、この共同声明に立ち返ることだ。関係国政府が合意事項を誠実に履行することが問題解決の唯一の道である。

「核放棄」を否定

 「核の放棄」は朝鮮だけがすればいいのではない。全世界で核軍縮を進めなければならない。ところが、核大国の米政府は言うまでもなく、日本政府も核兵器廃絶を求める気はさらさらない。

 日本政府は毎年国連総会に核軍縮決議案を提出するが、ポーズに過ぎない。実際、15年11月の国連総会第1委員会にオーストリアや南アフリカなどが提案した核兵器禁止の法的拘束力のある措置や効果的措置を求める決議には棄権している。核兵器を前提とした日米安保に反するためだ。

 安倍首相は朝鮮に対し「核不拡散の取り組みに対する重大な挑戦だ」と抗議しているが、一方で核拡散防止条約に加盟していないインドに対し原発輸出を進めている。その際「使用済み核燃料の再処理を容認する」旨伝えている。明らかに核保有国インドの核軍拡を容認したものだ。ましてプルトニウムを大量に蓄積する日本。自民党政権は核武装の野望を放棄していない。

 「核兵器なき時代」を訴えノーベル平和賞を受賞したオバマ米大統領はロシアと戦略核削減条約を結んだが、核兵器の性能アップ予算を従来の5倍(10年間で35兆円)に引き上げた。数を減らす一方でグレードを上げているのだ。

選挙目当て

 「(政権幹部が)同日選をしたいと思っていることは間違いない」。自民党二階俊博総務会長は1月9日、夏の参院選に合わせて衆院解散、ダブル選挙の可能性に言及した。朝鮮の核実験が、安倍政権支持につながると計算しているのは間違いない。戦争国家づくりをめざす安倍政権にとって朝鮮の核問題解決など考えてもいない。最大限利用しようと画策している。

 「断固たる対応をとる」と意気込む安倍は、核実験直後からオバマ米大統領と電話協議し、安保理開催と新たな制裁決議を持ちかけた。韓国朴槿恵(パク・クネ)大統領には「日韓で中国に要請を」と呼びかけた。日英防衛相会談(1/9)の場でも、「(朝鮮の核実験を)容認できない」とし、日本周辺で日英主力戦闘機による共同訓練を行うことを合意している。

 安倍政権は「対朝鮮包囲網」の主導権を握ろうとパフォーマンスを強めている。朝鮮に対する恐怖心と憎悪をあおり、「制裁」による威圧をひけらかす「強い指導者像」を示そうとしているのだ。

 「断固たる対応」を口にする安倍と「核の脅威に対抗する」と虚勢を張る金との間には何の違いもない。ともに軍事優先の戦争路線を突き進んでいる。好戦的政治家の思惑に振り回されてはならない。まして「戦争モード」を助長する、在日朝鮮人に対するヘイト行動を許してはならない。世界の民衆とともに憎悪と暴力の連鎖を断ち切らねばならない。対話による解決をはかれ。戦争法を廃止せよ。この声を大きくすることが、戦争をさせない力となる。

(注)朝鮮戦争

 1945年、日本の植民地であった朝鮮半島は日本の敗戦で解放された。しかし、北部をソ連軍が南部を米軍が占領する中、民族が望んだ統一と独立は達成されず、48年に南に大韓民国(韓国)、北に朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)が建国された。50年6月、朝鮮半島の統一をめざし朝鮮軍が南進。戦闘が勃発した。韓国軍には駐留していた米軍が国連軍の名で参戦、朝鮮軍には中国人民解放軍が加わり、ソ連は軍事訓練や武器支援をした。53年、休戦協定が結ばれたが、終戦を意味する平和条約は結ばれていない。  

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