2016年01月22日発行 1412号

【ドクター 「病気作り」医療と決別する1年に】

 2950億円。昨年4月に武田製薬の糖尿病薬アクトスが膀胱(ぼうこう)がんを起こしてアメリカで和解した賠償金額です。以前からこの薬は効果もなく色々ながんを増やすと指摘していた浜六郎氏の記事が、「週刊金曜日」12月18日号に掲載されました。

 ある新しい糖尿病薬は、副作用のため再試験がされたところ、副作用はない(?)が効果もないことが昨年ばれました。インシュリン以外のこんないい加減な糖尿病治療薬に年間3800億円ほど使われています(2013年)。糖尿病薬ばかりではなく、飲んでいる大部分の人に無益な降圧剤になんと1兆円弱(同)、「脂質異常症」薬には4300億円弱(同)が費やされています。これらは、投薬基準を低めての「病気作り」の結果です。

 近藤誠氏は固形がんへの抗がん剤の無効有害説で人気ですが、彼の説は世界の抗がん剤研究を検討した、基本的に正しいものと思います。

 日本で売り上げ第一、昨年千億を超えた抗がん剤アバスチンの延命効果は腸がんで約6週間、つらい副作用も多々あり、英国国立医療技術評価機構は2010年に予算を投入しないように勧告しています。こんな薬が大部分を占める抗がん剤に7千億円ほどが費やされています。

 無効有害ながん検診で、例えば乳がん検診用のマンモグラフィー保有台数は世界ダントツトップですが、これに加え超音波を売りこもうと虎視眈々です。日本のCTは、2011年で約1万3千台。アメリカとほぼ同じ、人口当たりでは、OECD(経済開発協力機構)平均の4倍です。日本の医療はいかに不要で障害をもたらす検査をしているかがわかります。

 かたや、日本の人口当たり医師数は、データのあるOECD29か国中26番目(2012年)です。

 以上のような、薬剤と検査機器偏重の日本医療をさらに極端に押しすすめるのが安倍内閣です。「日本再興戦略 改訂2014―未来への挑戦」では、社会保障切り捨てと同時に、「革新的」な医薬品・医療機器等による「市場創造」をあげています。2014年5月成立の「健康・医療戦略推進法案」の4本柱には、世界最高水準の「医療分野の研究開発」、デジタル化などがあげられ、検診やマイナンバーによる情報集中で、さらなるあやしい「新薬」や病気作りなどを狙っています。しかも、保険外併用、医薬・医療機器の規制緩和で、市民から直接ないし民間医療保険を通じ、医療関連企業によるぼったくりを企図しているのです。

 私たちは、薬や検査の意味をしっかり考え自らを守るだけでなく、無茶苦茶な医療政策の安倍政権を倒さなければ自分もみなの健康も守れないのです。

    (筆者は、小児科医)
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