2016年01月22日発行 1412号

【福島県楢葉町ルポ/避難指示解除はされたが…/子どもは庭先で遊べない】

空き家と廃棄物

 昨年9月5日、全町民避難地域としては初めて避難指示が解除された福島県楢葉町(ならはまち)。

 町の人口は住民基本台帳上、震災前の約7700人から2015年12月1日現在7364人となった。しかし、人通りはなく空き家が多く、3百数十人程度の減少とは思えない。10月国勢調査では976人と87%減で、その後の2か月間に6千数百人が戻ったとも考えにくい。

 これは、住民票を残したままの避難世帯が多い一方、原発廃炉や除染に従事する人たちが住民票を移しているからだ。「子どものいる世帯は、警察・消防・役場・東電関係者に限られている」(一歩会会長・新妻敏夫さん)。町内の小中学校は現在も閉鎖され、子どもたちは毎日いわき市までスクールバスで往復3時間かけて通う。若者の姿はほとんど見られない。商店は、町役場前にオープンした食堂などが入る「ここなら商店街」とコンビニ数店舗だけ。

 廃炉・除染労働者向けのプレハブは大量に残り、民家の空き家まで賃貸しされている。工業団地には世界最大という「日本原子力研究開発機構・楢葉遠隔技術開発センター」ができ、企業誘致の動きも執拗だ。隣の富岡町では放射性物質最終処分場問題も急浮上した。1kgあたり8千ベクレル超1万ベクレルまでの廃棄物を富岡の処分場に集めるが、山中のため運搬はすべて楢葉町を経由する。新たな道路建設も計画され、住民不在のまやかしの「復興」が進行している。

カネより自然が大切

 新妻さん宅は、昨年7月に計測した後2度、除染が行われた。ダイニングルームは0・2マイクロシーベルト/時と変わらない。樹木をきれいに伐採し、山砂・砂利を敷いた庭先では、前回に匹敵する4マイクロシーベルト/時の個所もあった。「やっぱり子どもや孫は遊びに来るのもダメだね」と苦笑いする。

 一歩会は12月、「最終処分場受け入れ撤回」の請願書を提出した。17日の環境常任委員会で採択されたが、翌18日の本会議では賛否同数、議長判断で否決。新妻さんは怒る。「請願書を出したこと自体、『県や富岡町との信頼関係が失われる』と批判された。議会や町長は誰のためにあるのか。町の再建・住民帰還と最終処分場受け入れは明らかに矛盾する」

 環境省は楢葉町と富岡町に百億円の交付金を持ちかけた。「『原発は絶対安全』と言われたが、すべてウソだった。環境が破壊されて避難を余儀なくされ、お金より自然の大切さを思い知らされた。同じ失敗を繰り返してはならない」と新妻さん。

 棄民政策に抗し地元で闘う人々と連帯し、国・東電・県の責任を追及していかねばならない。(Y)

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