2016年01月22日発行 1412号

【「報ステ」古舘が番組降板/参院選・改憲に向けたメディア支配/「安倍批判」がテレビから消える】

 テレビ朝日『報道ステーション』の古舘伊知郎キャスターが3月末で番組を去ることになった。NHKやTBSの報道番組でもキャスター降板の動きがある。共通点は安倍政権の圧力が背景にあることだ。宿願の憲法「改正」に向け、メディア支配を強める安倍政権。連中は本気でテレビから「安倍批判」を締め出そうとしている。

政権の圧力が背景に

 「不自由な12年間だった。言っていいこととダメなことの綱渡りだった」。12月24日の降板会見で古舘はこう振り返った。実は2年間の番組放送10周年記念パーティーの席でも「(テレビ朝日の)早河社長から“好きなようにやってくれ。何の制約もないから”と言われて始めたんですが、いざスタートしてみると制約だらけ。今では原発の“ゲ”も言えない」といった不満を漏らしていた。

 元経済産業省官僚の古賀茂明は今回の降板劇の裏側をこう推察する。「官邸の意向を受けた局幹部が昨年来、古舘さんを含め番組全体に、政権批判や反原発を抑えるように圧力をかけたと聞く。古舘さんは降板発表の際、『不自由だった』と言ったが、あまりの窮屈さに嫌気がさしたのだろう」(12/26東京)

 昨年3月まで報ステのコメンテーターを務めていた古賀は、最後の出演で「菅義偉(すがよしひで)官房長官らからバッシングを受けてきた」と自身の降板の内幕を暴露。自民党の情報通信戦略本部がテレ朝幹部を党本部によびつけ、「事情聴取」する騒動に発展した。

 安倍自民党は特に報ステの原発報道を問題視していたというのが古賀の見立てである。なるほど、報ステは福島県で子どもの甲状腺がんが多発していることに注目し、特集で取り上げてきた。原発再稼働・輸出推進の安倍政権にとって目障りな報道だったことは言うまでもない。

 経済政策に関する報道でも安倍自民党は報ステにいちゃもんを付けている。2014年11月26日に福井照・自民党報道局長名で出された文書は「アベノミクスの効果が、大企業や富裕層のみに及び、それ以外の国民には及んでいないかのごとく…」と放送内容を批判。「公平中立な番組作成」を要請した。

 放送法までちらつかせた脅しにテレ朝上層部は震え上がったのだろう。その後、番組担当プロデューサーに異動を命じている。

「安倍別働隊」の攻撃

 報ステと並んで安倍自民党が目の敵にしてきたのが、TBS『NEWS23』である。安倍晋三首相が生出演した際に「アベノミクスの効果は感じられない」とする街頭インタビューを流し、大いにうろたえさせた番組だ。そんな因縁のある番組のアンカーを務める岸井成格(しげただ)が今、「安倍別働隊」の執拗な攻撃を受けている(降板が決定したとの報道もある)。

 戦争法案の国会審議が大詰めを迎えていた昨年9月、岸井は「メディアとしても廃案に向けてずっと声を上げ続けるべきだ」とコメントした。すると「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体が岸井発言を放送法違反と指弾する意見広告を読売新聞と産経新聞に掲載した。

 この会を事務局長として取り仕切っている小川榮太郎は安倍礼賛本を出版し、安倍の資金管理団体から大量に買い上げてもらった人物。会の呼びかけ人にも安倍シンパの御用学者や文化人が顔をそろえている。安倍一派が市民運動を偽装し、意に沿わぬ番組や放送局に揺さぶりをかけていることは明らかだ。

総アベチャンネル化

 アベチャンネルと揶揄(やゆ)されているNHKでも大きな動きがある。良質の調査報道を続けてきた『クローズアップ現代』の国谷裕子(くにやひろこ)キャスターが3月いっぱいで降板。放送時間帯も夜7時半から10時に移ることになった。

 国谷と言えば、集団的自衛権の行使容認をめぐる菅官房長官とのやりとりが有名である(14年7月)。「他国の戦争に巻き込まれるおそれはないのか」という国谷の追及に官邸サイドが激怒。「君たちは現場のコントロールもできないのか」とNHK上層部に抗議した一件である。

 このように、安倍路線を批判したり、疑問を投げかけた人物が次々に報道番組から姿を消している。情報番組でも同様で、たとえば、日本軍「慰安婦」問題での朝日新聞叩きを批判したジャーナリストの青木理(おさむ)が『ミヤネ屋』(日本テレビ系)のコメンテーターを10月で降ろされた。

 大石泰彦・青山学院大学教授は「今の政権には改憲という大目標がある。この高いハードルを越えるには、まず参院選で勝たねばならない。そのために安倍政権は障害となるメディアを本気で殺しに来ていると見た方がいい」と指摘する(12/26東京)。

 実際、テレビから「安倍批判」が急速に消えつつある。首相や閣僚が国会でデタラメな答弁をしてもニュース番組は掘り下げようとしない。司会者やコメンテーターの発言も政権側のフォローばかりが目立つ。まさに“全局アベチャンネル化”というべき改憲シフトが着々と進行しているのである。     (M)



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