2016年01月29日発行 1413号

【「災害」口実に改憲/独裁狙う緊急事態条項の新設/民主主義否定する安倍】

 1月4日、安倍首相は「(改憲を)参院選でしっかりと訴えていく。国民的議論を深めていきたい」と述べた。これに先立ち、1月1日の毎日新聞は「政権幹部」の話として安倍が「任期中に改憲を目指す」との意向であること、改憲派「大規模災害を想定した『緊急事態条項』追加」から手を付けようとしていると報じた。

 安倍の本音は「自民党憲法改正草案」(2012年)にあるとおり、「自衛権」行使と国防軍保持を憲法に明記することにある。だが、秘密法以来、集団的自衛権行使容認閣議決定、戦争法制定と続いた安倍戦争政策は常に市民の反対運動にあってきた。しかも政権を連立する公明党は支持者に対し「平和の党」を標榜してきた。正面突破は難しいと判断した安倍は目先を変え、大規模災害を口実とした緊急事態条項新設のお試し改憲≠ヨとシフトしている。

戦前の天皇を超える権限

 安倍は改憲への国民的理解≠得るために、非常事態の必要性として大規模災害を持ち出した。しかも、「衆院解散時の議員任期の特例を設けるため」だと装っている。だが「自民党憲法改正草案」第99条では、議員任期はその末尾に一言記述があるのみだ。その眼目は、第1項と第3項にある。

 第1項は、内閣の一存で法律と同等の効力を有する政令を制定し、財政出動できると定める。現行憲法では立法府である国会が法律を制定し、法律の委任によって初めて政令を発することができる。議会制民主主義すら否定するものだ。第3項は、国籍を問わず全市民が中央政府・地方政府の命に従うよう規定する。

 天皇主権であった大日本帝国憲法の第8条(緊急勅令)、第70条(財政勅令)にぴたりと符合する。第31条(非常大権)との対比では、自民党草案は「最大限の尊重」との条件をつけている。しかし「国民の生命、身体及び財産を守るため」が優先し、事実上政府の意のままだ。しかも、帝国憲法ですら天皇の勅令は帝国議会閉会中に限られていたが、自民党草案に制限はない。国民主権の現代に天皇主権の時代を上回る権限を内閣に与えようというのだ。

過去に政府も否定見解

 帝国憲法により定められた天皇の統治権全般を「天皇大権」と呼ぶ。その天皇大権のうち第31条に定められた戦時・事変の際に発せられるものを「非常大権」という。

 「非常大権」の発動は人権に関わる憲法規定の停止を意味し、現行憲法制定時には盛り込まれなかった。このことについて、政府は国会答弁で「昔の憲法にはご承知のように、非常大権あるいは戒厳(注―軍部に統治権を委ねる状態)と言うようなものがございましたが、そういうようなものは非常に民主主義なり何なりの原則に沿わないということで、今日の憲法にはさような条項はないのであります」(1951年6月第10回国会法務委員会政府委員答弁)と明確に否定している。1951年といえば、朝鮮戦争開戦(1950年6月)から1年が経ち自衛隊の前身である警察予備隊がすでに創設された時期。安倍が戦争法の必要性の一つとして想定していた「朝鮮半島有事」の真っ最中だ。それでも政府は「非常大権」を否定していた。

 そのような民主主義・国民主権を否定する権限を帝国憲法下の天皇の権能を超えたものとして内閣に与えるなど正気の沙汰ではない。

 集団的自衛権行使のみならず、基本的人権を制約する武力攻撃事態法、国民保護法など違憲の戦争法を合憲化し、内閣による独裁に道を開く改憲は、どんな口実であれ許してはならない。

 安倍は1月10日、参院選について「自公だけでなく、おおさか維新など改憲に前向きな党で3分の2を」と公言した。戦争法廃止2千万署名、辺野古新基地建設阻止の運動を広げ、参院選で改憲勢力を一掃しなければならない。

【自民党憲法改正草案】

第九章 緊急事態

(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。(以下、略)

(緊急事態の宣言の効果)
第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

2(略)

3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。4緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

【大日本帝国憲法(編集部による現代語訳)】

第8条 天皇は公共の安全を保ち、または災厄を避けるために緊急の必要があり、帝国議会が閉会されている場合は、法律に変わる勅令(注 天皇の命令)を発する。(後略)

第31条 本章に掲げた条文の規定(注 現代の基本的人権の一部)は、戦時又は国家事変の場合に天皇大権(注 天皇の統治権)の施行を妨げるものではない。

第70条 公共の安全を保つため緊急の必要がある場合、国内外の事情によって帝国議会を召集することができないときは勅令により財政上必要な決定をすることができる。(後略)

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