2016年01月29日発行 1413号

【みるよむ(384) 2016年1月16日配信 イラク平和テレビ局in Japan 女性を物乞いに追いやる社会】

 2015年11月、サナテレビは首都で急増している路上の物乞いの問題について市民にインタビューした。イラクでは、長く続く戦争とIS(「イスラム国」)などによるテロのために一家の働き手を奪われたり、難民となった人たちが数百万人に上る。サナテレビは、貧富の差の拡大の実態を明らかにしている。

多くは戦争難民女性

 冒頭、現在のバグダッドで見かける物乞いの人びとの映像が映し出される。人通りの多い路上に座り込んで物乞いをする人もいる。多くは女性で、赤ん坊や何人もの小さな子どもをかかえている。短いショットだが、見るのがつらくなる。

 サナテレビのナベル・ハミードさんは「政府が沈黙しているために、女性は買春の食い物にされ、テロにさらされる」と批判する。市民活動家の男性は「こうした現象は、戦争の結果、当然起こる」と指摘する。イラク戦争と占領、すでに1年半を超えた「イスラム国」との戦争状態は難民や生活困窮者を何百万人も作り出している。

 女性の市民活動家は「女性の物乞いが増えているのは、戦争やテロ攻撃、私兵の犯罪によって多数の男性が死に、夫を失った女性たちが生きるために強いられたからだ」と説明する。戦争やテロの犠牲が女性や子どもたちに重くのしかかっている。「政府は、家族を奪われ、避難民のキャンプから追い出される女性をこそ守らなければならない」と女性活動家は訴える。

イラクだけではない

 別の市民は「物乞いが増えているのはバグダッドだけではない」と言う。経済的にはより安定しているとされるイラク北部のクルディスタンでも、トルコのイスタンブールでも増えている。やはり戦争によって難民となった人びとが多い。この人たちは、夏の暑さに耐え、雨にさらされる難民テントで暮らしている。ところが、イラク政府も、他の国の政府も、まともな支援策を行っていない。

 イラクは今、石油を大増産している。石油資源を支配するグローバル資本とごく一部の政治家や資本家が大儲けする一方で、中東で最も豊かな国の一つであるはずのイラクの首都バグダッドでさえ路上の物乞いが急増している。

 サナテレビはこの現実を明らかにし、社会の格差拡大にノーの声を上げることを呼びかけている。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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