2016年02月05日発行 1414号

【戦争法を生み出した日米新ガイドライン/「国民の安全」隠れみのに世界中で武力行使】

 安倍の「平和安全法制」は紛れもない戦争法だ。それは自衛隊と米軍の一体関係を強める新日米軍事協力のための指針(ガイドライン)≠実現するために提出されたことからも明らかだ。戦争法の施行を許さず、廃止に追い込まねばならない。

 安倍首相は1月22日の施政方針演説で「普遍的な価値で結ばれた日米同盟、世界第一位と第三位の経済大国による日米同盟は、世界の平和と繁栄のため、共に行動する『希望の同盟』であります」と述べ、ネパール地震への自衛隊派遣を引き合いに出し「世界のため黙々と汗を流す自衛隊の姿を、世界が称賛し、感謝し、そして頼りにしています。その自衛隊が、積極的平和主義の旗の下、これまで以上に国際平和に力を尽くす。平和安全法制は、世界から、支持され、高く評価されています。『戦争法案』などという批判は、全く根拠のないレッテル貼りであった。その証であります」と居直った。

 まったくの嘘だ。まだ施行されていない戦争法によって「ネパール地震」に対応したわけでもない。どう言いつくろっても安倍の「平和安全法制」は戦争法だ。その出自が日米軍事同盟(共同作戦)強化のための国内法整備であったことでも明らかだ。

日米の共同作戦計画

 2015年5月14日の戦争法案閣議決定に先立つ4月27日、外務大臣と米国務長官、防衛大臣と米国防長官で構成する2+2(日米安全保障協議委員会)は新たなガイドラインを了承した。

 ガイドラインは、両政府のグローバル資本の軍隊としての共同作戦計画だ。

 最初の指針は1978年に策定された。その柱は、あくまでも(1)日本の「平時」(2)日本の「有事」(3)日本に影響がある極東の「有事」が対象とされた。しかし、15年の新ガイドラインでは「地域の及び他のパートナー並びに国際機関との協力」「日米同盟のグローバルな性質」が加わった。ガイドライン作成の「根拠」である日米安保条約の枠組みすら逸脱し、全世界が日米軍事同盟の対象であることを鮮明にした。

 例えば、「地域の及びグローバルな平和と安全のための協力」の項では、「日米両国は、アジア太平洋地域及びこれを超えた地域の平和、安全、安定及び経済的な繁栄の基盤を提供するため、パートナーと協力しつつ、主導的役割を果たす」とする。

 その具体例として挙げられているのは「国連平和維持活動(PKO)」、「海賊対処」「機雷掃海」「テロ対策活動のための取組」などの「海洋安全保障」。「人道支援・災害救援」は「パートナーの能力構築支援」の手段として記されている。安倍が自慢する「ネパール地震救援活動」も、国際機関選挙・決議で日本を支持するネパールの「能力構築支援」であろう。そもそも敵味方を問わず手を差し伸べるのが人道≠ナあり、共通の敵を封じるためのパートナーへの援助は「人道支援」の名に値しない。

 戦争法の一つ「周辺事態法改正案」によって、地理的制約を取り払った背景には、日米同盟を地球規模に拡大する新ガイドラインの改定を合法化する必要があったのだ。

「存立危機事態」も

 新ガイドラインは「日本有事」以外にも「日本以外の国に対する武力攻撃への対処行動」について定めた。

 ここでは、日米以外の国に対する武力行使に対処するため、両国が各々の憲法・国内法に従って武力の行使を伴う行動をとることを決定した場合、日本に武力攻撃がなくとも日米両国と第3国は協力して武力攻撃に対処するとなっている。そして「自衛隊は日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に対処し、日本の存立を全うし、日本国民を守るため、武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」と決定した。戦争法の「存立危機事態」だ。

 その際の作戦の例示は「アセットの防護」「戦闘捜索・救難活動」、機雷掃海・艦船防護・臨検など「海上活動」だ。アセットとは「装備品」のことだが、小火器から艦船・軍用機まで含まれる。爆撃機を援護するため、日米の戦闘機が編隊飛行をしているときに爆撃機が襲われたら自衛隊も反撃する。艦隊戦でも同じだ。完全に一体となって武力行使することになる。それが「装備品防護」だ。「各々の憲法及び国内法に従い」という一文が入っているので、解釈による憲法破壊のみでは足りず、戦争法で「存立危機事態での集団的自衛権行使」を可能とした。

 「3か国及び多国間協力」の項では「日米両政府は、3か国及び多国間の安全保障及び防衛協力を強化する」と述べている。日米韓・日米豪・日米フィリピン・日米印などが想定される。これらの軍事同盟を結びつければ、NATO(北大西洋条約機構)のような多国間軍事同盟のアジア版が完成する。そのためにも、従来の政府見解では禁じられていた「集団的自衛権の行使」が必要となる。

切れ目のない侵略体制

 安倍は施政方針演説で戦争法について「自国防衛のための集団的自衛権の一部行使容認を含め、切れ目のない対応を可能とし、抑止力を高める。国民の命と平和な暮らしを守り抜く」と述べた。

 だが、新ガイドラインについてすでに自衛隊統合幕僚監部は「安全保障法制との整合性を確保するとともに、『切れ目のない』日米協力を実現している」と部隊指揮官に説明している。新ガイドラインは、平時から「切れ目のない協力を強め」自衛隊・米軍一体となってグローバル資本の戦争である「テロとの戦い」を遂行するものだ。そのための国内法整備である、安倍の「平和安全法制」は紛れもない戦争法だ。

日米ガイドラインの変遷

(防衛省「新『日米防衛協力のための指針』」より作成)

1978年
侵略を未然に防止するための態勢
日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等
日本以外の極東における事態で日本の安全に重要な影響を与える場合の日米協力

1997年
平素から行う協力
周辺事態における協力
日本に対する武力攻撃に際しての対処行動等

2015年
切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応
日米両政府の国家安全保障政策間の相乗効果
政府一体となっての同盟としての取組
地域の及び他のパートナーならびに国際機関との協力
日米同盟のグローバルな性質
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