2016年02月05日発行 1414号

【長野バス事故の根本原因 元凶は規制緩和と労働破壊】

 長野県・碓氷(うすい)バイパスで起きたスキーツアーバス事故は若者など15人が死亡する大惨事となった。1985年1月の犀川(さいがわ)スキーバス事故(死者25人)以来の悲劇だ。

規制強化も抜け道だらけ

 ツアーを企画した旅行会社「キースツアー」と運行を請け負ったバス会社「イーエスピー」社は、運転手に対する採用時健康診断の未実施(労働安全衛生法違反)、運行前に「無事到着」の書類を作成し押印(有印私文書偽造)、運行前点呼の未実施(道路運送法違反)など数多くの違法行為を行った。両社が責任を免れないのは当然だ。

 一方、この事故の原因、責任は明らかに国にもある。死者7人を出した関越道バス事故(2012年)の後、国交省は「バス事業のあり方検討会」を設置。同検討会の報告を受け、それまで旅行業法の適用を受けていた団体ツアーバスにも道路運送法を適用し、運転手1人あたりの連続運行距離を従来の670キロメートルから400キロメートル(夜間)に制限するなど規制を強化したにもかかわらず、再び大事故を招いたのである。

 検討会のメンバーに入っていない労働組合関係者からは、この規制強化は根本的な解決ではないとの批判が上がっている。2013年7月に発足した「新高速バス制度」の下でも、(1)旅行会社が自社の保有するバス車両で足りないときには他社の保有車両を使って運行を委託できる「傭車」制度を残したこと、(2)観光施設の入場券や宿泊などをセットにすれば従来同様「ツアー旅行」扱いとなり制度の適用を受けなくてもよいことから、新高速バス制度も結局、抜け道だらけで規制強化ではないと指摘されている。

 確かに同制度発足以降、ツアーバス業者の7割が撤退に追い込まれ、安全が向上したように見えた。しかしその後も新たな業者が参入し続け、過当競争は続いた。バス会社よりも旅行業者の発言力が強いため「旅行業者が格安で募集したツアーにより、バス会社に無理な運行条件を押しつける」「旅行業者はバス運行現場の実態を知ることもなく、乗客に対する責任も負わない」というツアーバスの根本的問題が放置された。

 国交省のイーエスピー社に対する行政処分も、同社が7台保有するバス車両のうち1台だけを使用停止にするという甘いものだった。これでは行政処分の意味はない。国交省の責任は重大だ。

 国交省は、全国約12万社もあるバス・タクシー・トラック業者の監査官を330人しか置いていない。まともな監査などできるわけがない。

雇用破壊が生んだ事故

 「バスの安全は制度が保障するものではなく、最終的にはドライバーに委ねられている…近年は大手事業者が非採算部門を子会社に委託する例が多く、そこで働くドライバーには組合がない例が多い。その人々は津波で防潮堤が破壊された沿岸部で仕事をしているようなものである」「(運転手は)年始も祝日も勤務があり、休暇が取りにくい。拘束時間が長いが賃金は安い」。検討会委員を務めたバス雑誌編集長が提出した意見書だ。人命を預かるバス労働者の過酷な労働条件を指摘し改善を求めている。だが国交省はこの意見も無視し、対策を講じなかった。

 事故を起こしたツアーバスの運転手は非正規雇用(契約社員)で大型バスの運転経験もなかった。2000年の道路運送法改悪による規制緩和以降、バスの需要に応じて繁忙期だけ数か月〜1年未満の短期間の非正規雇用とする例が目立つ。自分の雇用形態を理解しないまま乗務する例まである。労働安全衛生法では、雇用期間が1年未満の労働者には雇い入れ時健康診断の義務さえない。

新自由主義が人を殺す

 自動車運送事業用自動車事故統計年報(国交省)によれば、規制緩和以降、バスによる重大事故は明らかに増えた。1994〜2000年(規制緩和の年)まで400件台で推移していた重大事故は、その5年後2005年度には721件に激増。以降も600件台で、規制緩和以前のほぼ1・5倍だ。規制緩和が事故を生んだことは隠せない。

 小泉構造改革から強まった規制緩和は、世界一企業が活動しやすい国を作ろうともくろむ安倍政権に引き継がれている。アベノミクス―新自由主義と闘い、安倍政権を打倒しない限り、こうした事故がなくなることはない。

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