2016年02月12日発行 1415号

【2016春闘/安倍とグローバル資本の生活破壊許さない/経団連特別委報告を斬る/大幅賃上げと労働法破壊阻止を】

 2016年春闘を前に、グローバル資本の頭目らが集う日本経済団体連合会(経団連)は1月19日、「2016年版経営労働政策特別委員会報告」(以下「報告」)を発表した。安倍政権と一体でグローバル資本の利益を最優先し、総人件費抑制と消費増税による実質賃金切り下げ、非正規雇用拡大や「残業代ゼロ」法案はじめ労働法制改悪推進を宣言するものだ。安倍とグローバル資本による生活・労働破壊に、労働者・市民総がかりで闘わなければならない。

 「報告」は、「安倍政権が『新三本の矢』の実現を目指して意欲的な政策を実行しつつある」と称賛し、政府が示す日本の将来像が「経団連ビジョンで提示した、2030年までに目指すべき国家像と多くの面で一致しており、政・官・民が総力を結集して果敢に取り組んでいくことが望ましい」と持ち上げた。

 安倍と経団連のビジョンが一致するのは当然だ。安倍の政策を打ち出す各種審議会などには、大企業・経済団体、御用学者が並び、グローバル資本に望ましい政策を次々と立案している。安倍は、そのスピーカーであり実行者だ。

ベースアップを敵視

 「報告」は、安倍「新三本の矢」の中でも「最も重要な点は、『GDP600兆円』というチャレンジングな目標の達成にある」とする。

 本来GDP(国内総生産)の拡大には、その6割を占める個人消費の大幅な伸びが不可欠だ。個人消費の喚起には、可処分所得を増やし、所得増加分が貯蓄ではなく消費にまわるようにしなければならない。賃上げと将来不安の解消は必須だ。

 ところが、「報告」は総人件費抑制がすべての出発点だ。

 昨年版「報告」では、まだ「月例賃金についてはベースアップ(基本給アップ)も選択肢のひとつ」とあった。16年版は「15年を上回る『年収ベースの賃金引上げ』について、前向きで踏み込んだ検討が望まれる」。月例から年収へ、ベースアップからボーナス・手当へと後退した。ベースアップによる賃上げは容易に下げにくいことから、労働者の将来の生活の安心感につながる。ボーナス増では来年の見通しも立たない。ボーナスすらないところもざらである中小への波及効果は一層少なく、消費税増税も控えている。生活不安は解消しない。

 「報告」は、海外のグループ企業との連結収益をもとに「国内外の従業員それぞれのグループ経営への貢献度合い」による賃金決定に言及した。物価水準や生活関連費用の違いを無視し、労働者の生活を一切考慮しない。狙いは国際的な低位平準化による総人件費抑制、賃金切り下げだ。

均等待遇も拒否

 最低賃金については、「政府は全国加重平均1000円をめざす方針を決定」と触れた。だが、そもそも日本の最低賃金15年度全国平均798円は、OECD(経済協力開発機構)中でも最低水準(英独仏等は1200〜1300円)だ。「報告」は、十数円の上昇にも「支払能力を考慮せよ」「生産性向上に裏付けられた付加価値増加を伴う必要がある」とけちをつける。

 同様に最低水準であるパート賃金についても、本来の同一労働同一賃金=均等待遇実現をあくまで拒み、格差温存の「均衡待遇」に固執する。

 労働組合の側はどうか。

 連合の主要労組の一つトヨタ労連は、ベースアップ要求を昨年の6000円から半額の3000円に引き下げた。「大手と中小の格差縮小のため、中小がついて来れるよう要求を切り下げた」という。

 アベノミクスによる円安で、大手輸出企業は収益を拡大したが、輸入品は値上がりした。原材料を加工し納入することの多い中小企業にとっては死活問題だ。取引先の大企業は、価格転嫁を許さず買いたたきを続ける。中小は、賃上げの可能性を大企業に奪われている。下請けとのフェアな取引を求めることこそ本筋だ。

 連合など大企業労組の要求水準切り下げは、企業経営のパートナー(御用組合)としてグローバル資本の意思を代弁している。「報告」は、労働組合を経営者と従業員のコミュニケーションを取り持つツール≠ニ評価する。

労働法改悪を催促

 「報告」は、安倍による労働法制破壊推進をうたう。

 強行された労働者派遣の原則自由化について「新しい期間制限の仕組みの正しい理解と法令順守の徹底」に留意するよう促す。法令違反の際に派遣労働者が派遣先に直接雇用を申し込むことができる労働契約申し込みみなし制度♂避のためだ。法令順守は同制度の「不用意な適用を回避するために極めて重要」とし、「期間制限に抵触しないように、有期雇用派遣労働者の受け入れ管理を徹底」と注意喚起する。派遣労働者を直接雇用せず、「消耗部品」扱いを続ける腹だ。加えて、残されたわずかな規制≠ナある「労働契約申込みみなし制度に加え、グループ企業内派遣の8割規制、離職後一年以内の派遣としての受入れの禁止、日雇い派遣の原則禁止」の見直しまで求める。

 「報告」は、労基法改悪を催促する。一定年収を上回る労働者には残業代を払わない制度について「残業代ゼロ法案という誤った捉え方」と弁明。「適用対象となることが一種のステイタス」「企業は健康確保を最大限配慮した対応をとると考えられる」として「高年収保証型成果給」と賛美する。だが、対象労働者の年収制限を定めるのは一片の省令にすぎない。国会審議を経た労働者派遣法でも今や原則自由化。いったん法制化されれば制限が引き下げられ、全労働者に拡大が狙われることは間違いない。

 さらに、長時間労働を強いる「裁量労働制・フレックスタイム制」拡大、「首切り自由」の新たな手法である「限定正社員制度」など、労働法制改悪要求の山積みだ。

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 勝手放題の生活・労働破壊を許してはならない。企業の内部留保は総額350兆円、この10年だけで150兆円も増加した。これをベースアップと最低賃金引き上げに吐き出させ、課税強化で社会保障に回させよう。継続審議の労基法改悪案を廃案へ追い込もう。非正規雇用をなくせと企業に迫り派遣法撤廃をかちとろう。労働者・市民総がかりの16春闘で、グローバル資本とアベノミクスによる生活破壊を押しとどめ、安倍内閣を打倒しよう。



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