2016年02月12日発行 1415号

【福島事故 制御不能の汚染水 海側遮水壁で地下水上昇 放置し再稼働推進する安倍政権】

 福島第一原発では、山側から建屋に流入する地下水の量が減ったにもかかわらず、海側に溜まった汚染地下水を建屋に移送しているため、かえって建屋地下の汚染水が増えるというでたらめな事態が生じている。〈リード終わり〉

汚染水移送の怪

 東京電力は昨年10月26日、福島第一原発の敷地で汚染された汚染地下水をせき止める海側遮水壁の工事が完了したと発表した。1〜4号機の護岸に直径1・1bの円筒状の鋼管矢板(長さ30b)を全長780bにわたって埋め込んだという。この遮水壁の工事は実は2012年5月から始まっており、10bの開口部を残してほぼ完成していたが、地元の漁業関係者からの反対で工事は中断されていた。昨年8月に地元が同意し、工事が再開され完成したものだ。

 東電は、この海側遮水壁の完成により、それまで海に1日約400d流れ込んでいた地下水を10dにまで減らせると説明した。

 それから1か月後、遮水壁の上部が海側に20a傾き、埋め立てて舗装した部分との間に隙間ができていることが分かった。行き場を失った陸側の地下水が1・5bも上昇し、圧力が強まったのが原因という。

 問題は、それだけにとどまらない。当初の計画ではせき止めた地下水はポンプで汲み上げ、浄化して海に放出する予定だったが、トリチウム(三重水素)の濃度が東電の放出基準値(1g当たり1500ベクレル)を超え、トリチウムは浄化設備でも取り除けないため、1日約400dの汚染地下水をそのままタービン建屋に移送しているという(12・19福島民友)。

 建屋周辺の井戸「サブドレン」からの汲み上げで建屋への地下水流入量はかつての1日約400dから約200dまで減っていたが、海側遮水壁が完成して以降は建屋地下の汚染水は逆に600dに増えていることになる。

 原子力規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長代理が「水を建屋に戻さなければならないのならば、(汚染水対策は)かえって悪い結果になっている」(12/19毎日)と懸念を示すほどの状況だ。


最終は海洋放出

 建屋地下にあるとみられる核燃料デブリ(溶け落ちた核燃料やコンクリート、金属などが混ざって固まったもの)を除去できない以上、汚染水を減らすには建屋に流入する地下水の量を減らすしかない。だが、建屋周りの地中に「凍土遮水壁」を造る工法については規制委がその運用を認めておらず、解決の見通しは立っていない。

 2014年夏に約45万dだった貯水タンクの汚染水は、それから1年余り経った昨年10月には70万dに増え、最終的な処分のめども立っていない。この汚染水にどれくらいのトリチウムが含まれているのか。ロイター日本版(2015年4月1日付)は「福島第一には現在、900兆ベクレル規模のトリチウムがたまっている」と報じている。

 溜まり続けるトリチウム汚染水を前に、原子力規制委員会の田中俊一委員長は「1g当たり6万ベクレルという排出基準値を守った上で、タンクに溜まったトリチウム水は薄めて海に放出すべきだ」と主張している。

平常運転も危険

 では、国の放出基準値以下ならトリチウムは安全なのか。とんでもない。世界の原発周辺ではダウン症や小児白血病などが増えており、原因はトリチウムと考えられるのだ。

 日本でも、玄海原発がある佐賀県玄海町の白血病による死者数は、全国平均の6倍以上、佐賀県平均の4倍の多さだ。福島第一の900兆ベクレルは、玄海原発から11年間(2002年からの)で放出されたトリチウム放出量826兆ベクレルに匹敵する。

 また六ケ所再処理工場は原発とは桁違いの量のトリチウムを放出している(2006年4月からの3年間だけで2170兆ベクレル)が、青森県はがん死亡率が2004年から11年間連続で全国ワースト1位となっている。

(遠藤・山田・渡辺「トリチウムの危険性」参照。http://blog.acsir.org/?eid=47)

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 安倍政権は「アンダーコントロール(状況は制御されている)」とウソをついて東京オリンピックを招致したが、福島第一原発の汚染水の状況は明らかにアウトオブコントロール(制御不能)である。こうした現状に目をつぶり、再稼働にひた走る原子力ムラの暴挙を世論と運動の力で阻止しなければならない。

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