2016年02月12日発行 1415号

【未来への責任(193)被害者不在の「解決」はあり得ない】

 米国のクリントン前国務長官の私用メールから日米関係の現実と日本の外務省の無能さを暴露する事実の一端が明るみに出た。2012年9月日本政府の尖閣諸島国有化に当たっての、キャンベル国務次官補(当時)の話である。キャンベルは「8月7日に東京を訪れ、佐々江(外務次官、現駐米大使)と日本政府に(尖閣諸島の国有化計画について)北京と協議し、通知するよう促し」ていた。ところが、佐々江はこの「助言」を聞き入れなかった。キャンベルはクリントン宛てに「中国側は明らかに激怒している。にもかかわらず、佐々江は中国は実際には日本の動きについて必要性を理解し、(協議を)受け入れると信じている」とメールで報告し、最後に「私には確信できない」と付記していた。

 その後に事態がどう推移したかは今や明らかだ。佐々江、日本の外務省の分析、政策判断能力がいかに貧弱かは白日の下に晒(さら)された。日本の国家安全保障会議(NSC)は、こんな無能な連中に支えられている。絶対に彼らに勝手に判断させてはならない。

 「慰安婦」問題に関する日韓「合意」でも日本・外務書の無能さが目立った。昨年末の12・28「合意」の裏では、米国が陰に陽に圧力をかけた。ホワイトハウスのアーネスト大統領補佐官はあからさまに語っている。「米国は、この(慰安婦)問題を最終的に解決するために(日韓)双方が協力するように促す役割を果たした」(1/22朝日)

 そして、安倍首相、朴槿恵(パククネ)大統領はこれを受け入れ、「合意」を交わして「最終的かつ不可逆的な解決」に至ったと宣言した。

 「合意」発表後、米国のケリー国務長官、ライス大統領補佐官(安全保障担当)は揃って声明を出した。この「合意」が「最も重要な2つの同盟国の関係改善に資する」こととなり、「地域ならびに国際的な問題において両国との協力関係を深めるとともに、安全保障での3か国間の連携を推進することを期待」できるようになったことを「歓迎」したのだ。

 尖閣問題と異なり、「今回はうまくいった」と米国政府は考えているかもしれないが、それは違う。なぜなら当事者不在の「合意」が「最終的かつ不可逆的解決」になどなるはずがないからだ。

 そもそも「慰安婦」問題を明るみに出し、日本政府に謝罪・賠償を求めて訴訟を起こし、国連人権諸機関に取り上げさせて戦時下における女性への性暴力問題、性奴隷制と認定させ、日本政府への解決勧告を引き出してきたのは被害者自身である。彼女らはほとんど自国政府の支援なしにこの運動を進めてきた。韓国政府には自国民のために外交保護権を行使する義務はあっても、被害者に断りなく「最終解決」を「合意」する権利はない。被害者が認めない「合意」を「不可逆的解決」などと加害者側が言う資格はなおさらにない。

 植民地主義は清算され、性奴隷制の真実は明らかにされねばならない。私たちはハルモニたちが受け入れることのできる解決を見るまでともに闘う。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク事務局長 矢野秀喜)

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