2016年02月12日発行 1415号

【「慰安婦」合意から一か月/やまない安倍一派の歴史歪曲発言/反省なき政治決着は白紙に戻せ】

 日本軍「慰安婦」問題を最終的かつ不可逆的に解決したとされる日韓合意から1か月が過ぎた。安倍晋三首相が本当は謝罪も反省もしたくないのは明らかだったが、案の定、取り巻き連中が被害女性を傷つける暴言を連発し始めた。さらに司法までが歴史修正主義を容認する判決を出す始末。政治決着で幕引きの不当性が鮮明になってきた。

 元「慰安婦」の韓国人女性が1月26日、衆院議員会館で記者会見し、日韓合意への反対を訴えた。2人は李玉善(イオクソン)さんと姜日出(カンイルチュル)さん。李さんは「私たちを無視して合意したのは受け入れられない」と被害者の頭越しの政治決着を批判。姜さんは「なぜ安倍首相は私たちに直接謝罪しないのか」と憤った。

 彼女たちの怒りはもっともである。なるほど、日本政府は今回の合意で「軍の関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた」ことへの「責任を痛感」し、安倍首相が「心からのお詫びの気持ちを表明する」としている。だが、合意から今日に至るまで安倍本人から被害者に向けた謝罪の言葉はない。

 一方、自民党や御用メディアからは「慰安婦像を撤去しないのなら10億円の拠出は停止だ」とか「問題を蒸し返さないと韓国政府に国連の場で明言させよ」といった声ばかりが聞こえてくる。およそ加害責任を認め反省している者の言動ではないが、安倍政権はこれを放置している。

 安倍政権の元閣僚からも被害女性を中傷する発言が飛び出した。発言の主は桜田義孝。2013年9月から約1年間、文部科学副大臣を務めた人物である。桜田は1月14日、自民党本部で行われた会合で次のように語った。

 「(売春防止法ができるまでは)職業としての娼婦(しょうふ)、ビジネスですよ。これを何か犠牲者のような宣伝工作に惑わされ過ぎてんだよね。韓国なんかでは妓生(キーセン)パーティーってのは年がら年中、日本の観光客が来て、営業活動でやっているわけでしょう。そんなのは職業としての売春婦ということをね、私は遠慮することはないと思うんだよね」

 典型的な「従軍慰安婦はねつ造」論者の言説である。連中は「追軍売春婦」なる造語まで発明し、「慰安婦は営利目的で軍に近づいてきた。謝罪などする必要はない」と強調している。桜田の発言はまさにこれだ。日本軍が「慰安婦」制度を立案し、運営してきたこと自体を否定しているのである。

かつて安倍も同じ発言

 実は、安倍自身も若手議員時代に桜田と瓜二つの発言をしていた。1997年4月、安倍は自ら事務局長を務める歴史修正主義者の会合でこう語った。「韓国にキーセンハウスが多く、そうした商売に多くの人々が日常的に従事していたため、(売春が)とんでもない行為ではなく、相当生活の中に溶け込んでいたのではないかとさえ思う」

 かつて日本から韓国への買春ツアーが「キーセン観光」と称して行われていた。そのイメージに乗っかる形で「あの国は昔から売春国家であり、『慰安婦』は売春婦の一形態にすぎない」というのである(「妓生=売春婦」は朝鮮の歴史・文化に対する偏見以外の何ものでもない)。

 安倍が本当に「慰安婦」問題に対する国家責任(加害責任)を痛感し、謝罪の意思を表明するならば、かつての自分の言動も含めて反省するのが筋であろう。しかし、安倍が欲したのは「慰安婦問題を蒸し返さない」との言質のみ。すなわち、韓国側に歴史問題での追及を二度とさせないことだけだったのだ。

合意が暴言の口実に

 「今回の日韓合意は1993年の河野官房長官談話より後退している」−−日本軍「慰安婦」問題研究の第一人者である吉見義明・中央大教授はこう指摘する。

 「日本は河野談話の時とは違い、“再発防止”については何も約束しなかった。河野談話では『歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ』という内容が含まれている。しかし今回の合意は10億円さえ出せば何もしなくても済む構図が作られた。河野談話より後退している」(1/8韓国・ハンギョレ新聞)

 つまり、日本政府は今回の合意により歴史を好き勝手に歪曲する(都合の悪い事実は教えない)ことを正当化する口実を得た、との見方である。このことを証明したのが、ほかならぬ吉見教授の名誉棄損裁判であった(1/20判決/東京地裁)。

 詳しくは別稿に譲るが、判決は吉見教授への誹謗中傷発言(「『慰安婦は性奴隷』という教授の著書はねつ造」)について、「意見・論評の域を出ず、名誉棄損は免責される」とした。この論理に従えば、被害女性を「嘘つき」「売春婦」よばわりするような暴言でも意見・論評の範疇(はんちゅう)として許されることになる。まさに、ヘイトスピーチ容認と同じ屁理屈ではないか。

 日韓両政府が手を組んで被害者の正義実現の闘いを阻み、歴史修正主義の横行にはむしろ拍車をかける。このような形の「解決」は歴史の審判に耐えられない。「慰安婦」日韓合意はやはり白紙に戻すべきである。     (M)

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