2016年02月12日発行 1415号

【吉見教授 名誉棄損裁判/「ねつ造」発言で賠償認めず/歴史修正を司法が後押し】

 「慰安婦」問題を研究する吉見義明・中央大教授が、自らの著書を「ねつ造」と言われ名誉を傷つけられたとして、桜内文城(ふみき)・日本維新の会衆院議員(当時、14年12月総選挙で落選)に損害賠償などを求めた訴訟で東京地裁は1月20日、吉見教授の請求を棄却する不当判決を出した。

 問題の「ねつ造」発言とはこうだ。13年5月、橋下徹大阪市長(当時)の外国特派員協会での記者会見に同席した桜内は「(司会者が)ヒストリーブックスということで吉見さんという方の本を引用されておりましたけれども、これは既にねつ造であるということがいろんな証拠によって明らかとされております」と言い放った。

 発言撤回と謝罪の要求に桜内が応じなかったため、吉見教授は提訴。8回の口頭弁論が重ねられてきた。

 研究者の人格を否定する重大な名誉棄損が、どんな理屈で免責されたのか。

 判決はまず、桜内発言は「口頭での短いコメントであり、聞いた人が『事実でないことを事実のようにこしらえる』という『ねつ造』の本来の意味に理解するか疑問」とする。最高裁判例では、ねつ造とは「証拠をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張する」こと。桜内自身が「ねつ造は証拠によって明らか」と言っているのだから、判例に照らしても「ねつ造」を本来の意味以外に受け取ることなどできない。

 続いて「発言は『慰安婦は性奴隷』説に対する意見・論評の表明に属する」とみなし、「『慰安婦の境遇をどう理解すべきか』を論じたもので、目的は公益を図ることにあったから、違法性はない」と驚くべき結論を導く。ヘイトスピーチも、マイノリティの人びとの境遇を論じる公益目的の意見・論評の表明だから許容される、とでも言うのだろうか。

 報告集会で吉見教授は「怒りを催す判決。研究が『ねつ造』とされたら研究者は職を辞するしかない。その意味を全く理解していない。日本に法の支配はあると思っていたが、そうではなかった」と強く抗議。「しかし、敗訴は裁判を継続しろという天の声かもしれない。提訴してよかったと思うのは、『慰安婦』制度が性奴隷制度であることが阿部浩己(こうき)さんや小野沢あかねさんの意見書などを通して余すところなく論証されたこと。裁判の勝利に向け闘っていきたい」と決意を語った。

 裁判を支援してきた「YOSHIMI裁判いっしょにアクション」共同代表の梁澄子(ヤンチンジャ)さんは「この社会の向かっている方向に恐怖さえ感じる。吉見さんの著書を『ねつ造』とすることは被害女性たちの名誉を棄損すること。日本の市民の責任として、重大な人権侵害は重大な人権侵害だとまっとうに言える普通の国にしたい」と力を込めた。

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